コーヒー映像大賞 2017
作中でコーヒーが重要な役割を果たす映画に贈ります。
「マギーズ・プラン」
「マギーズ・プラン」はマギーが夫の前妻にいれてもらったバターコーヒーを飲んで目を白黒させるシーンが秀逸でした。
「ベイビー・ドライバー」では一仕事終わった後、人数分のコーヒーを買ってみんなに渡すところまでがベイビーの仕事なのですが、その「人数」にベイビーが入っていないのです。ベイビーとコーヒーの関係はこの映画の外にあって、今後の人生で彼がどうコーヒーとつきあっていくかを想像するのも楽しいです。飲めないのかもしれないし、大好きになるかもしれない。
外に出る映画大賞 2017
母語の外など、自分の入っている檻を発見してそこから外に出る映画に贈ります。
「未来を花束にして Suffragette」
「否定と肯定」
「MR. LONG ミスター・ロン」
「ダンシング・ベートーヴェン」
「Suffragette」は主人公を演じたのがキャリー・マリガンだというところが秀逸でした。働きづめに働いてわずかな賃金しか得られないこと、男性からの要求にノーと言えないこと、そして娘もまた自分と同じような人生を歩むだろうこと、そのことを夫が当たり前のことと信じて疑いもしないこと、そんなことに「ノー」と言っていいんだ、言うべきなんだと飛び出していく女性を、キャリーが個性的に演じていました。
「否定と肯定」では、ホロコーストの実在を否認する人間に対して、その否認がでたらめであることを論証してみせなければいけないという苦難に遭って、その場所が学界ではなく法廷だという、二重三重に外に引きずり出される主人公の苦闘が静かに描かれていました。
「ミスター・ロン」は外の視点から日本語を聞けるのが魅力。母語の外で、どこへ自分が流されてしまうのか想像もつかないロンさん(チャン・チェン)の静かなうろたえぶりがおもしろかった。
「スキップ・トレース」「ダンシング・ベートーヴェン」では母語の外で、ファインだったりプアだったりといった、いろんなレベルの英語が行き交う中、我が道を模索する人々の姿が活写されていました。こういうのを見ると、英語、なんかすごいことになっているなと思います。
ファンクラブ映画大賞 2017
ひとりのカリスマあるいはスター、指導者などのまわりに集まる人々(ファンクラブ)の姿を追った映画に贈ります。
「はじまりへの旅」
「ヴェンジェンス」
「ジョン・ウィック:チャプター2」
「はじまりへの旅」の家族は「お父さんファンクラブ」のようで、お父さんを真ん中にして安定していたかに見えたのだけど実は……というところがおもしろかったです。
「ヴェンジェンス」はニコラス・ケイジが一度バーで飲んだだけの女性とその娘のために奔走する刑事役を熱演。なんと「熱望されるニコラス・ケイジ」が見られました。新鮮。
「ジョン・ウィック」は前作でもそうだったんですが、新作でジョン・ウィック・ファンクラブっぷりに勢いがついてしまい、くらくらしました。逆に「最後のジェダイ」はレイア・ファンクラブの弱いところや、ファンクラブとしてのファーストオーダーの瓦解(のようなもの)が描かれていて、長らくファンクラブ VS ファンクラブの様相を呈してきた SW の自己否定のような話になっていました。アンチ・ファンクラブもののような。その中でレイが師もいない、友人もいない、あたたかい思い出もないと、どんどん孤立していくのが印象的でした。
この二人組がすごい大賞 2017
「イップマン 継承」……イップ・マンさんとウィンシンさんご夫妻
「ナイスガイズ!」……ジャクソン・ヒーリーさんとホランド・マーチさん
「ドクター・ストレンジ」……ドクター・ストレンジとマント
「イップ・マン 継承」はとにかく、ウィンシンさんがエレベーターを降りて「私のイップ・マン」を再発見する場面につきます。
「ナイスガイズ!」は予告の段階で楽しみだったのですが、まさかこれほどラッセル・クロウとライアン・ゴズリングの相性がよいとは。そしてここまで書いて思い出したのですけど、2017 年は「ラ・ラ・ランド」「ナイスガイズ!」「ブレードランナー2049」と、ゴズやんの映画を三本も見ていて、「三本も見た」ことがとっさに思い出せないほど、徹底して味わいが違っていました。ゴズやんの裏声悲鳴がたくさん聞けて楽しかった。
「ドクター・ストレンジ」。「マントになりたい」とうわごとを言う人々が続出。偉業。
この子どもがすごい大賞 2017
「ナイスガイズ!」の娘さん
「ヴェンジェンス」の娘さん
「マギーズ・プラン」の娘さん
「ナイスガイズ!」のゴズやん演じるホランド・マーチさんには、なぜか素晴らしく賢く、真面目で、かわいいお嬢様がいらして、この子がお父さんたちが捜査に行くとなると車のトランクに忍び込む、パーティーに潜り込んで捜査する、それ以前に対外的にお父さんがまずいことにならないよう確実にあちこち手を回しておく……こう書き出すと都合のよいできすぎちゃんのようですが、彼女も必死なので。真面目に必死にやってたら、ああ育ったんです。
「ヴェンジェンス」の娘ちゃんもお母さんを守ってあげたくて必死なんですが、お母さんは娘ちゃんがかわいくてベイビー扱い。そんな彼女にニコラス刑事が言うのです。"I need your help." この一言でたたずまいがきりっとしてしまう彼女。泣きはらした後の赤い目で、ぐいっと背筋を伸ばしてしまう彼女。もう、抱きしめたい! 抱きしめたい大賞!
「マギーズ・プラン」は親たちのどたばたに巻き込まれて、それでも粛々と状況を受け入れて(というか、ほかに選択肢はない)、とくにぐれもせず、それなりに親たちのどたばたに付き合っていた長女がかっとして、放った一言が秀逸でした。単純な言葉なんですけど、それを言われた親たちと観客の「おっしゃる通りです……」という空気が最高。
打ち明け話大賞 2017
「シーモアさんと、大人のための人生入門」
「20 センチュリー・ウーマン」
「スウィート 17 モンスター」
「マギーズ・プラン」
「メッセージ」
イーサン・ホークがインタビューで「なんのために働いているかって? それは酔って、そばにいる人の打ち明け話を聞くためだよ!」と言った……という記憶があるのですが、今般検索したらヒットするのは自分自身のミニブログばかり。
……私、ねつ造してる?
いや、確かにどこかでそんなようなことを言っていた。
こんな発言、嘘や空想で思いつかないもん。
ほとんどの映画は誰かの打ち明け話だということもできるのですが、これら 5 本はドラマの根幹に打ち明け話があって、それによって大きく話が動いていったので印象に残っています。