プール雨

幽霊について

今年観た今年公開映画の感想まとめ

私的ベスト5。
 
1. 冬の小鳥 監督:ウニー・ルコント

映画『冬の小鳥』予告編
 大好きな父に連れてこられた孤児院で、ジニは「親に捨てられた」という事態が飲み込めない。その怒りを食卓にぶつけるジニを寮母は厳しく叱りつけながら、他の子が片付けをやってあげるのは特に止めない。
このとき、しゃがんでジニの目を見て肩をゆすって彼女が返事をするまで語りかける、なんてこともなく、寮母は忙しく働く手を動かしながら、厳しく、しかし短く叱りつけるだけだった。
 また、やはり怒りを人形にぶつけるジニに、同じ寮母が怒りはこれにぶつけなさいと言って布団を叩かせる場面も印象的だった。
どちらも、捨てられた子の傍にいる大人の距離の取り方がとても良かった。言葉でこどもをコントロールしようとせず、しかし放ったらかしにするわけでもなく、傷ついた彼女に対して、自分が基本的には救いの手とならないことを知り尽くしてしまった大人の、きちんとした距離の取り方と接し方がとても悲しかった。
 孤児院で少し背が伸びたジニのために寮母がスカートの丈を直してやる場面も同様に素晴らしかった。スカートを直しいてるあいだ、何か歌ってとジニに寮母は言う。ジニは父が大好きだった大人の恋愛の歌を歌う。それを聴きながら針を動かす彼女の控えめな表情がたまらなかった。
 捨てられた子の悲しみや苦しみを大人が癒してやることなどできない。傷ついた心は、自分で埋葬し、しかしそこにいつまでもあると意識しながら、毎日をやっていくしかない。「埋葬された自分」をないことにしてしまえば必ずや復讐されるのは自分だからだ。
言葉少なに、真っ直ぐに悲しみと対峙した、とても優しく、厳しい映画だった。

 
2. (500)日のサマー 監督:マーク・ウェヴ
 トムとサマーのキュートさは歴史に残ると思う。
アニー・ホール」(1977 ウディ・アレン)と並び称されることが多かった本作だが、失恋についての映画としても「アニー・ホール」クラスで歴史に残ると思う。まだサマーが気持ちを手探りでいる初期の段階で、すっかり調子こいてしまうトムの姿には、誰もが自分の胸に手を当てて「ひーーーーーーー、やーーーーめーーーーーてーーーーーー!」と叫んだことであろう。そして「ただの映画だよ」の一言ですっかりトムへの気持ちが閉ざされてしまうサマーの姿にも、多くの人が自分の胸に手を当てて「あいたた……」とうつむいたことでしょう。老若男女誰もが頭を抱えずにはおれない魅力的な傑作失恋映画。

 
3. 借りぐらしのアリエッティ 監督:米林宏昌

借りぐらしのアリエッティ 予告
 アリエッティが翔に角砂糖を返しに行く場面が印象的だった。翔のいる部屋の窓に向かって壁をつたい屋根に登った所で振り向いて、そこに広がる風景を見る。ほんの短い時間差し挟まれる広い世界と、それを見る彼女の表情で、外へ出てみたい、でも怖い、外のことは忘れよう、でも……という気持ちがわかる。
 台詞が削ぎ落とされていて、その分映像が饒舌で、「映画を見た!」という気になった。アリエッティの初登場場面は翔視点なので、彼女がまるで虫みたいに速い。ところが彼女と翔が次に対峙する場面ではアリエッティ視点になってるので、翔の動きが遅い。それが怖く映る。「こわがらないで…」って言うんだけど、ごわいよ! かつ、翔はとても内面が荒れ果てていて、その心中では暴力が吹き荒れてる。おそらく日々「みんなどうせ死ぬんだ」と言って自分を慰めているのだろう。その翔の暴力がアリエッティに向けられる場面があって、ストレートに恐ろしい。
 この翔が一方的に贈るものがアリエッティたちを追いつめて、ついには住み慣れたこの土地を出て行かなければならない事態に陥る。「贈る」ことの暴力的な側面が物語を牽引していて、素朴だが太いドラマだと思った。
 小さな物が登場人物たちのあいだを行ったり来たりする、そのことが生み出すドラマにスポットをあてて描ききったところが成功している。見どころが多い。
 
4. ぼくのエリ 200 歳の少女 監督:トーマス・アルフレッドソン

ぼくのエリ 予告編_x264.mp4.mp4
 裏「(500)日のサマー」。
 エリは誰か人間が傍にいて面倒をみてくれないと生きていけない。ともに暮らしている中年の男との関係は正に主人と奴隷だが、そもそも奴隷なしでは生きて行けないエリのその優位性はきわめて危ういもので、いつでも反転する可能性を秘めている。
 映画では、そこははっきりと描いていないが、この中年の男はエリの奴隷にならざるを得ない何か特殊な事情があるのだろう。主人エリに対する彼の隷属は絶対で、エリのために死ぬことも厭わない。
 それがオスカーとの間では危うい。最初はオスカーがエリに恋をして接近していくのだけど、あるとき、この関係があっさり反転してしまう。そこからは劣位に追いやられたエリの苦境が始まる。オスカーは自分の優位性を確信するやいなや、エリを言葉で表情で追いつめる。
 このあと、主人の地位をエリとオスカーとで取り合った果てに、エリが贈与と見せかけてオスカーから自由を奪って自分との人生を選ばせるというストーリー展開に興奮した。
 
5. インセプション 監督:クリストファー・ノーラン

映画『インセプション』 予告version1
 単純に楽しんだ。おもしろかった。
 トムとジュノもがんばってたし。
 
おわり。