プール雨

幽霊について

こんな夢を見た

私の家は通称「もこもこの家」。
柱も屋根も床も全部キルトで覆われている。
だから「もこもこの家」。
当然服も全部おばあちゃんお手製のもこもこキルト。
冬は暖かくて夏は暑い。
でもこの町は一年中ほとんど冬だから大きな問題はない。
そんな私の恋人は隣の通称「黒い家」のおにいちゃん。
なんで「黒い家」かって言うと、全体的に家が黒いから。
未だに座敷牢があるとか、代替わりの際には必ず血が流れるとか、「黒い」噂もある。
そんな敬して遠ざけられる「黒い家」の次男と、常に笑われる対象である「もこもこの家」の長女がつきあっていることは周知の事実だ。
狭い町だから。
でも、「黒い家」の人たちだけ、知らない。
もし知られたら大変なことになるから、町の人たちもだまってくれているのだ。
それにどうせいずれ私がおにいちゃんにふられるだろうから、それまではそっとしておこうっていう「町の総意」があるらしい。

ところがそんな隣の家に、長年行方不明だったおにいちゃんのお兄さんが突然帰って来たことから急展開。
跡取りが無事に帰って来たので、次男であるおにいちゃんは家を出ることになった。
ひどい話だとは思うけど、おにいちゃんは「助かったよ」と笑っている。
僕といっしょに行く?」と訊かれて、私は「うん」と答えた。
着ているものが全然違うので、夫婦に見えるかどうか心配だったけど、今までだってそうだったからなんとかなるだろう。

さて、二人がこの町を出る段になって、
「黒い家」ではちょっとした宴が催されることになった。
私はおにいちゃんのお母さんに呼ばれて、
「困ったらこれをご覧なさい。あの子、あなたが考えているより遥かに非常識よ。」
と分厚いノートを数冊手渡された。
めくってみると、黒い家でのいろんなしきたりが書かれてあって、それが相当めんどくさいのだ。
ところどころ血の染みがついているのも気になる。
でも私たちはここを出ていくんだし……と思っていると、お母さんから衝撃の一言が。
「その規則に従って暮らしているのはあの子だけなの。あの子、それ以外駄目なのよ。大変だと思うけど、がんばってね。」
え~!!
因習に囚われていたのは、この「家」じゃなくて、おにいちゃん「個人」だったの?
ショック……

宴が終って、いよいよ二人は旅立つことになった。
外に出ると春だというのに雪が斜めに吹き付けている。
町はすっかり雪で覆われて、視界はどこまでも白と黒。
この雪が二人の行く末を象徴……
というところまで考えて思い直す。
だめだめ、そんなことじゃあ。
私の服はもこもこしているし、おにいちゃんは基本的に呑気だし、大丈夫。