プール雨

幽霊について

晴れた日、デモがあった日、間違えた日。良い日。


 
東京に住んでいたら、最低でも一年に一度は日比谷野外大音楽堂に行くべきです。
たとえば 7 月なんて、スチャダラパー電気グルーヴTOKYO No.1 SOUL SETSAKEROCK相対性理論等々によるフェスもあれば、「忌野清志郎ロックン・ロール・ショーYAON79 Love & Peace ダイナミックフィルムライブ」というイベントもあり、「2011 真夏の夜のフラメンコ」もあります。スケジュールをめくっていけば、一つくらいは行ってみたいなと思われるものがあるはずです。そして、ちょっとでも「行ってみたいな」と思ったら絶対に行くべき。その日はビールでも飲んで、木々の間を抜けてくる風に吹かれて、夕方からの空の移り変わりに目を奪われたり、ふと見上げたときの星空にはっとしたりすればいいよ!
 
初夏のお楽しみということで、「春の音楽フェス スプリングフィールド 東京場所 於・日比谷野外大音楽堂」に行ってきました。
午前中一杯降った雨も開場 2 時間ほど前には上がり、日比谷公園内は気持ちのいい風が吹いていて、もうこれだけでも満足だなというほどでした。会場前には屋台なども出ており、ビールやチューハイを買い込む人の姿も。チケットをとった時点では私も「初夏の野音でビール飲むんだ〜」という気持ちでしたが、いざ当日になると「今日は素面でいよう」という気分になっており、お茶持参で臨みました。
出演者は渋さ知らズオーケストラ、細野晴臣クラムボンLITTLE CREATURES、pupa(出演順)。
豪華出演者陣による、信じられないほど楽しいフェスでした。
 
オープニングアクト渋さ知らズオーケストラ。なんと開場間もなく、客入りの途中で楽器が鳴りはじめ、てっきりセッティングのチェックかと思いきや、スタッフさんたちに混じってどう見ても演奏家やダンドリ(指揮者)の方の姿が。
私が入場したときには 8 割くらい埋まっているという状況で、席を探して座ると、外からはデモのシュプレヒコールが響いていました。そんな中、まだまだお客さんが後ろからぞくぞく入る中で、ゆるゆると演奏は始まっていきました。ほぼ満席になったころ、MC が入場して、その後は大騒ぎ。私は座ってゆっくり聴いてましたけど、「しんぼうたまらん!」とばかりに立ち上がって飛び跳ねる人が多かったです。
そこに登場したのが細野晴臣さんだったので、客席では「今日飲まなくていつ飲むの〜」というモードに入ってしまう人々が多数発生。一曲目の「悲しみのラッキースター」では、なんと途中で間違ってしまい、やり直し。「リハーサルではうまく行ったんだけどな〜」と言いながらほんとに最初からやり直しちゃった。細野さんの豊かさとキュートさに客席は骨抜きになりました。MC では、外で行われているデモについて「最初は僕、写真撮ったりしてた。でもだめだね、やめちゃった。ちゃんと一緒に並んで歩かないとと思って」と言及。そして、「11 日ってのはほんと、いろんなことがあるんだけど、今日は晴れた日、デモがあった日、間違えた日。……良い日だ」と言って次の曲へ。
ここから次のクラムボンへの幕間で、ちょっと客席は変なテンションに。個々に色々あるんだろうけど、やっぱりみんな毎日イライラしてるのかなあ。スタッフさんがひやひやしたりするような場面もありつつクラムボンへ。
クラムボンはもちろん嫌いじゃない、どっちかって言うと好きなんだけど、こんなにライブがいいなんて知らなかった。また行きたい。演奏が始まると、一気に客席は明るくてピースな雰囲気になった。そしてすぐ感動しちゃう。メンバーが「わかった、わかったから、落ち着け」と客席をなだめるほど感動して興奮する人多数。「今日どうしちゃったの?」と言いつつ素晴らしい演奏を続けてしまうクラムボンでした。
LITTLE CREATURES も良かったなあ。ソリッドでかっこよかった。彼らも、ライブがいいバンドなんだねえ。
素朴に、音って振動だし風なんだなっていうことを感じた。物理的に音で身体が震えたもの。気持ちよかった。
 
ここまでで会場はもはや完全に満足してたと思います。なにせいきなり、何の断りもなく始まった渋さ知らズオーケストラの華やかな激渋っぷりに胸を打ち抜かれ、細野晴臣さんのサーヴィス満点の演奏とおしゃべりに骨抜きにされ、「舞台荒らし」クラムボンよって会場は興奮のるつぼと化し、そこで登場した LITTLE CREATURES がまた完璧に格好良くて。
それで、さあ、いよいよ pupa だ!っていう段になって、少し不安になってしまった。そこまでの、豊かで明るくて華々しくも生々しい、数々の名演の後、 pupa のエレクトロニカ歌謡を聴いたら、線が細いように感じてしまうんじゃないだろうか、フェスとして尻すぼみになってしまうのでは……などと。
が、そんな失礼きわまりない杞憂は一気に吹き飛ばされました。イントロが始まってステージ上にメンバーが登場したときの、有無を言わさない会場の高まりときたら! もう、何か考えるより先に立ち上がって両手を上げてました。
名ドラマーが続いた後にラスボス的に登場した高橋幸宏のドラムで、完全にアガってしまった。
インスト曲を 2 曲終えて客席が完全に興奮した後、悠然と登場したのがリードボーカル(と呼んで良いと思う)の原田知世
先に男性陣 5 人が登場したときも会場は一気に熱を持ったけど、原田知世が現れたときのどよめきときたら、ちょっと他にない感じだった。「きゃーかわいー」とかじゃない。どよ……ざわ……みたいな。ずっと主役の看板を背負って生きて来た人の佇まいはすごい迫力で、客席の息をのむ音すら聞こえてきそうなほどの威圧感があった。にもかかわらず可愛い。その原田知世高橋幸宏の生ドラムを従えてエモーショナルに歌います。いつもより強い感じの、確信に満ちた歌い方でした。
この日、新アレンジで披露されたのは "Meta"、"Anywhere"、"Creaks"、"Dreaming pupa"、"If"、"Mr. Epigone"、"Let's, Let's Dance"。記憶は曖昧です。"Mr. Epigone" の後に何かやった気がしないでもない。
話が前後しますが、この日は 6/11 で、3/11 の震災から 3 ヶ月。会場の外ではデモもあり、やはりどうしてもそこからは一時も目をそらせないのだった。
高橋幸宏が、「僕たちはデモで直接的に表現するわけじゃないんだけれども、次の曲はちょっと怒ってるんだと思う……、怒ってるんだ……でも、優しくもありたい」と言って披露したのが "Creaks"。
リリース時よりも曲が育っていて、今回は少し恐ろしくすらありました。不協和音がきわどくて。珍しく高田漣がひどく気持ち悪いフレーズを弾いたりもして、なんだか怖かった。
今の状況にぴったりくる曲ですが、もともと歌詞がかなり直截で、本人が言うように、書いた時すでに怒ってたんだと思う。一部引用します。
 

Is This the way how it's supposed to be ?
Who's gonna stop it ? Is it you or me ?
And is this the way we keep on living ? I don't know.

Is this the way how things are gonna be ?
Who's gonna choose between the black or white ?
And is this how we decide to stay alive ? Unnoticed ?

Ain't right, you just go through the motions.
Hear now ? This creaking of my heart ?

 
「おしきせで動いているだけで、そのままでやっていけると思ってるの?」という歌詞。比喩もなにもなくて、怒りそのままのような歌詞です。
似たような直截さは他の曲にもあります。
pupa は 6 人の作家がよってたかって書いていて、「にもかかわらず」なのか「それゆえに」なのかわかりませんが、歌詞が直截的で、かなりはっきりした共通のテーマがあります。それは、喪失と、怒りと、足場を喪った後の希望です。それは別に、今この時じゃなくても、普遍的なテーマではありますが、今、特に必要とされている態度だと思います。喪った後、怒りにまみれたその身体にも愛は繰り返し降ってくる、踊ろう、と何度も pupa が歌っていました。ストレートに素晴らしかった。
メンバー紹介のとき、「いちおうパーマネントなバンドなので」と高橋幸宏が言ってましたが、ほんとに他にはない個性をもった、このメンバーだからこそできるライブバンドだなーと感じ入りました。次のライブはいつだろう。いっぱいライブしてほしい。絶対また行きたい。
 
彼らは決して「ひとつになろう」とか「がんばれニッポン」とか言わなかった。コール&レスポンスを要求するとき一つとっても、「苦手な人もやってみて」という感じだったし、終始、「ひとりひとり」「それぞれ」「個々に」と言いながら、悠然と客席を見回す演者が多かった。その視線がありがたかったし、素朴に尊敬できた。

おわり。