プール雨

幽霊について

雲の上を見下ろす

Art on Ice 2013 in Japan を見て来ました。初日、初回でしたが、客席も一杯で、フィナーレでは場内総立ちという大盛り上がり大会でした。ああ、一人で見に行ったのが失敗! ともだちを誘えば良かった。チケット代が巨額だったので誘いにくくて。それだけが心残り。
まず、ランビエールが歌った。白い王子服で。ランビエールが歌うのはスケート界では常識ですか? なんかわりと器用に、生で歌った……。
生のオケがあって、キャサリンジェンキンスの素晴らしい歌があって、ダンサーは美しく、氷上ブレイクダンスは世にも楽しく、氷上アクロバットはびっくりで、エアリアルは口あんぐりで。
そんな中、鈴木明子が踊りまくり(ますます美しくなって!)、ナタリー・ペシャラ&ファビアン・ブルザがなんでもできるところを見せつけ(きゃーきゃー言ったわ)、タチアナ・ボロソジャル&マキシム・トランコフが「ああ、インタビューではあんなアホ、じゃない、才能が溢れすぎてる状態なのに、なんて素敵、なんてかっこいい、完璧……」としか言い様がない充実ぶりを披露し、サラ・マイヤーが相変わらず真っ直ぐなスケートを見せ(まっすぐでかたい印象なのにしっとりした曲が似合うなんて最高!)、安藤美姫がリンクの上にいられる喜びを素朴に表現し(もう二度と離れないで!)、羽生結弦が負けん気を見せ(フミヤの曲では足元を完璧に歌に合わせていて、ああ、このひと、競技でもこういう風に滑りたいんだなあと思いました)、アリョーナ・サブチェンコ&ロビン・ゾルコビーはやっぱり雲の上を飛ぶようで(大好き!)、荒川静香はやはりなにもかもが滑らかで(破格!)、ステファン・ランビエールはいろいろすごかったけど「コーラス・ライン」でいかんなく雲の上のテクで会場が雲の上で(困惑するほどかっこいい)、なんかきっぱりしたきれいなスケートの人がいるなと思ったら無良崇人で、満を持して登場した高橋大輔はやっぱり独特にうまかった。
おもしろかった!
 
私は歌じゃなくていいんじゃないかとは思いました。歌そのものはすばらしいし、生で聞けるだけで嬉しいけれど、やはりスケートはリンクに立ってるスケーターが主役であってほしい。スケーターは流れてる音楽に合わせて、そこで鳴ってる音も表現しますけど、鳴ってない音も表現するでしょう。それが歌に相当すると思うので。
ヴァイオリンとか、チェロとか、マリンバとか。ソリストを呼ぶならやはり楽器がいい。
そんな中、荒川静香ステファン・ランビエールのテクニックはすごかった。ちょっと、あの二人は、すごいなあ。いまさらだけど、ますます大変なことになってました。荒川静香ステファン・ランビエールがいるから、スケーターが競技を終えた後、プロになって、ということにある種の夢が感じられるんだなあ。それは彼女たちからのギフトなんだなあ。
氷が雲のように見えました。
フィギュアスケートのおもしろさとして、スピードと力強さを備えた動きをしながら、ふわっとして見える、浮いているように見えるというのがあって、Art on Ice はその「天国っぽい感じ」を表現するのに最適なイベントなのかもしれないなと思いました。
とにかく、とても不思議でとても素敵な体験でした。
 
ところで、安藤美姫は、「スタートに着きました」という感じでした。そのこと自体に喜びがあって、彼女のシルエットが暗いリンクの上に浮かび上がっただけで、言い知れぬ興奮を覚えました。キャサリンジェンキンスの「アメイジング・グレイス」に乗せてのスケートは素晴らしかった。長い、大きな腕がしなって、白くて大きな鳥のようだった。ところが久しぶりの、新しい「ボレロ」の方にところどころ危なっかしいところがあって、「甘くないなあ」と思わされました。彼女の滑りを見るのが久しぶりで、その間、夢が広がって、彼女ならリンクの上に乗りさえすれば大丈夫、くらいのことを考えていた。それが、「甘かったなあ」と思い知らされた。