プール雨

幽霊について

コーヒー映像 (4) 決定! ベストコーヒー映像 2014

★★★『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』 監督:矢口史靖★★★
 
森や人の匂いが沸き立つような映画で、とても気持ちよく見ました。
無人駅に降り立った時のむわっとする木々の匂い、山の中腹で感じるすーっとするけどざわざわしもする木々の匂い、ずっとそこに人が住み続けてる「ひとんち」の匂い、こどもたちの匂い、おとなの匂い。
平日の朝に見たので、観客はそれほど多くなかったのですが、エンドクレジットで誰も立たなかったのが印象に残っています。エンドロールが終って、客電がついて、自分たちがゆっくりと動き出す様に、ああ、映画を見たんだなあ、という感じがしました。
何に惹かれたかと問われれば、主人公の子が不器用で要領の悪いまま、村に馴染んでいく様子が良かったし、村の登場人物として違和感がある人が誰一人いないのが良かったし、子役が子役じゃなくて子どもなのが良かったし、あげればきりがない。その中でもやはり、山や木がちゃんと映っていたのが良かった。自分は山育ちなので、映画やドラマを見ていて「山をなめてるなあ」と思うことが多い。この映画はそういうことがなかっただけでなく、そういうことを忘れさせてくれた。見てる間中、自分の現実と参照しあうようなことがなかった。つまり、ちゃんと、一つの独立した空間として、固有名のついた「神去村」があって、「この村のやりかたはこれ」という固有性を強く感じた。実在してる感じが強かった。それが何と言っても良かった。
主人公の平野勇気(染谷将太)が当初この村に研修生としてやってきたときは、世話役のヨキ(伊藤英明)が汲んでくれた川の水も飲めないし、晩御飯に出てきた鹿刺も喉を通らない。おまけにマムシ酒を飲むかと言われて衝撃を受ける。
その夜、彼が台所を漁るシーンがちゃんと入っているのは良かった。
枕を毎朝ヨキに蹴られながら起こされているうちに、勇気も自分で起きられるようになってくる。その頃に映されるのが、勇気が世話になっている中村林業の親方、清一さん(光石研)が豆からいれてくれるコーヒーだ。昼休み、ヨキは早々に弁当を食べ終え、清一さんにカップをつきだす。清一さんは「まだだ」と言ってそれをつっかえす。丁寧にいれて、一杯いくらとお金をとりながら、みなにコーヒーをふるまう。勇気は作業が遅れたのか、それとも疲れてぼんやりしていたのか、まだ弁当に手もつけていない。みなが食後に飲んでいるコーヒーを、まず一口。うめえ、という声がもれたか、そういう顔をしたのか覚えていないが、彼はそれをとてもおいしそうにごくごくと飲み干して、そして満を持して弁当を開ける。と、そこには……!!
という感じで、勇気は、最初は飲めなかった川の水も、飯田家のばあちゃんと囲む食卓も、弁当も、全部ごくごくばくぱく飲み干しながら、ここでの一年を過ごす。その間にはあんなことやこんなことがあるのだが、それらすべてが、人がどこかに根付く様を映し出していて、とにかく楽しかった。