プール雨

幽霊について

テロ, ライブ、フルスロットル、イヴ・サンローラン、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

9/10 DVD

 ダニー・ボイルの長編デビュー作。ユアン・マクレガー主演。調子こいた若者たちがえらい目に遭う映画。ユアンの「嫌な奴」演技が見られるのはこれだけではなかろうか。
 
9/13 @ヒューマントラストシネマ渋谷

 
 テロリストからの電話を受け脅迫されるキャスター、ユン・ヨンファ役をハ・ジョンウが熱演。今度のハ・ジョンウは走らない。走らないハ・ジョンウなんて……と思いきや、なんと見飽きない顔でしょう。顔だけで映画一本持ってしまった。
何度か、彼が歩きながら着替えたり、上司に電話で交渉したりしながらヒゲを剃ったり、といった変身シーンがあるんだけど、その度に完璧には変身しきれず、とても人間味がある。ヒーロー誕生譚ではなく、ふつうの人が間違ってそこに連れて来られて、必死に生き残ろうとする過程で、自身の良心に出会っていく話。その姿に胸がかきむしられる。警察やテレビ局の上層部があまりに非人間的で彼らが出てくるとそこだけ戯画的になってしまう。でもそこまでリアルだと見てるこっちの身がもたないかもしれない。それくらいユンに集中させられる。終わった後、自分の顔がハ・ジョンウになっているような気がして仕方がなかった。
クライマックスの「主人公が当事者の代わりに頭を下げる」シーンがこの世界に存在するだけでもいい。
 
9/16 テレビ、BS プレミアム
 
 マーヴィン、ベッシー、チャーリーが似ていて、物語上大きな役割のないチャーリーがマーヴィンやベッシーのように幸せになるんだろうなという予感がするのが良いなあ。リー(メリル・ストリープ)やハンク(レオナルド・ディカプリオ)といった、大きな欠点を抱えた主人公の物語から離れたところにいる人が、物語とは無関係に幸せだというのはシビアだけど、上品だ。
ハンクがベッシーの病気から逃げた後、やはりその母であるリーが震える手で荷造りするところに、彼と彼女の弱さだけでなく優しさが十分に表れていて救いがある。ハンクがそれと言わずにただ帰ってきて、リーにどこか行くのとやはり震える声で尋ね、彼女が行かないと答え、そして覚悟を決める。そのとき、別にリーは「反省」とかしたわけではなく、相変わらず「過去逃げて、今も逃げそうで、これからも逃げるかもしれない」リーのままで、そのことを似たもの同士のハンクはよくわかっていて、さらにはリーもわかってる。弱い人というのは、繊細なので、逆にただ見つめられるだけで自分を律することができたりもする。言葉で追い込んだりしちゃいけないんだな。
 
9/17 @新宿ピカデリー

 邦題『フルスロットル』。『アルティメット』のリメイクで、ポール・ウォーカー主演によるアクション。カミーユ・ドゥラマーレはこれが長編初監督。ポール・ウォーカーのアクションがきれいで良かった。相棒役のダヴィッド・ベルもがっしりしたエヴァン・ライサチェクみたいで、全体的に絵がスポーティーでかわいかった。ポールは動けるし、がっしりしてるのに、マッチョじゃない雰囲気は貴重。初登場シーンの、ちょっと頼りなく、線が細く見える感じなんかは、なかなか出せる人がいないのでは。彼がいないと思うと、あらためて寂しい。
 
9/18 DVD

 
 まず、ラブコメとして、とっても良かった。女性側がめろめろになってしまって自分を見失ってる状態で、男としては、君のことは大好きだけど、仕事も辞めてしまった今の君とは結婚できないよ、と言っているという状態から映画はスタート。この女の子がキュートで、アンディのことが大好きで、見ていると「許してやって」という気分になってしまう。でもアンディは、彼女に自分を取り戻してほしいと願っているので忍の字なのだった。
麻雀のルールはよくわかりませんので、麻雀場面はよくわからないのですが、パイに触れるアンディの指がとてもきれいだったので、これを撮りたかったのかなと思ったほど。また、弟役のルイス・クーがとてもかわいらしく撮られていて(ぬいぐるみとのツーショットなどもあり)、この人は基本的に香港映画界でかわいがられてるんだなあと思いました。
 
9/19 DVD

 こんなパッケージ、こんな邦題ですが、すっごく良かったです。中年クライシスもので、主人公は高校教師。自身の生活と仕事に満足し、その善良さにかけらほどの疑いも持っていない。その彼の前に「むかつく生徒」が出現したことにより、大小様々な間違いが積み重なって最後には……という話。
その「むかつく生徒」役にはリース・ウィザースプーン。彼女は実は何も悪くない。子どもで、自分というものがなく、ただ走らされているだけの被害者。大抵の大人は彼女に会うと気まずく感じてしまうと思う。主人公は彼女のことが大嫌い。これが彼の弱点で、実は子どもっぽいところが抜け切らない人物だとわかる。彼は、彼女のことが嫌いなのは自分の問題だということに気づかず、間違いに間違いを重ね、最後には生徒たちを傷つけさえする。気づいたら、加害者になってしまっていた。誠実に、まじめに生きてきたはずなのに、どこで間違ったんだろう? と思っているだろうが、観客からすれば、「最初からだよ……(涙)」という感じです。
すーごい、おもしろかったです!
 
9/20 @新宿武蔵野館

 
 ストイックなつくりで、見終わった時に「ああ、イヴが生きて、死んだ」という感じが素直に起きた。作中に彼を解釈したり分析したりする言葉がなく、物語化されていないので、実話ベースの映画としてはとても上品だった。それが人物と釣り合っている感じがした。
冒頭の美しさと、終盤の美しさが別種で、そのことに痛ましさを感じることすらおこがましいと思えたし、ひとりぼっちでぽつんと映画と対峙している気持ちが味わえて、振り返ってみると、そのことがとても貴重に思える。
イヴと女性たちの幼いまでの慕わしさにふるえるような気持ちになった。その雰囲気がショーのバックステージにまで続いていて、美しかった。
 
9/22 DVD
 
 ハ・ジョンウ主演のラブコメ。主人公ク・ジュウォルは作家で、いつも心の中にいるメンター的なおじさんに恋の相談をしてる。何を言っているかわからないと思いますが、「ローマでアモーレ」的な感じで、主人公の横にいつもおっさんがいて、「今行かなくてどうする」みたいなアドバイスをしていて、ジュウォルはそれを聞いて、実に素直に「ようし!」と一目惚れした相手、ヒジンに向かうわけです。
この恋は一目惚れなので、当然「幻滅」がついてきます。理想と違う! とかっかしたりするジュウォルさんもジュウォルさんですが、実は臆病なヒジンもヒジンで、さっさと撤退してしまいます。これがこの後どうなるか……というところで生きてくるのが「手紙」。
韓国映画で「手紙」と言えば「イルマーレ」という傑作があって、こちらの主人公たちは会えない(絶望的なほどの)距離を手紙で埋めます。互いの間を行き来する手紙はとても優しく、それぞれに強い気持ちにさせてくれます。でもここでちょっと気になるのは、それが手紙だからではないか、ということです。相手から離れたところで、相手のことを思いやりながら書く手紙だから思いっきり優しくできるのであって、同じ空間で相対したら、ほんとに優しくしあえる関係かどうか、そこのところはわからないわけです。「イルマーレ」は「さて、この先、二人はどうなりますか。でもそれは、別の話」という感じで終わります。
「ラブ・フィクション」では、手紙で振り向かせた男が、その後、彼女からリクエストがあったにもかかわらず、書いてくれないわけです。実際会ってますから。そして、実際会ってみて、やはり優しくできない。これは、現実ならここでおしまいの話ですが、映画ではどうなるかと言うと……。
 
9/28 @立川シネマシティ
 
 この主人公に感情移入しないでいることは、たいへんに難しい。ヒーローものなのに、自分の、個人的な映画だという気がしてしまう。まだサントラは買っていないが、どうせ買ってしまうだろう。もちろん、私が引き継いだ曲というか、私の「ネタ元」は彼とは全然違うわけだけど、さあ掃除、さあ炊事、さあ仕事、というときにまず BGM を決めないとスタートさせることができない自分としては、とても親しみがわく映画だし、クリエイティブとはこういうことよ、と嘯いてみたい気持ちにすらなるのだった。つまり、とても元気が出る、楽しい映画です。客電がついて、立ち上がって後ろのお嬢さんと目があったときの、彼女のにやにや顔を私は決して忘れないでしょう。