監督:スコット・フランク
原題:A Walk Among the Tombstones
2014年 アメリカ
1999年、連続誘拐殺人事件でニューヨークの人々は怯えていた。そんな中、元NY市警の酔いどれ探偵、マット・スカダーは被害者から捜査を依頼される。其の最中に新たな誘拐が発生。身代金を奪っては死体を送りつけるという残忍な犯人との交渉にマットは乗り出す。
まず、この酔いどれ探偵から漂う疲労感がただごとではない。疲れきった表情、やっと立っているとでもいうような立ち姿、まずそうなコーヒー。
依頼する方も不安だろうが、見ている方も不安だ。
さらに、依頼されるマットはマットで依頼者が信用出来ない。不安の三つ巴で劇場には深くて濃い霧が立ち込める。
その濃い霧の中をよろよろと行くマットが数々のミスを犯しながらたどりつく事実の悲惨さ。
方やこの映画は兄弟ものでもあって、ある種の戦後ものでもあるというのがおもしろい。
入隊して戦争に行き、そのことを通じて先行きのつかない人生をなんとかしようとした兄が、やはりというべきか、むしろそれで取り返しのつかない穴にはまってしまう。
その兄を、しかし弟はどこまで信頼しているのだった。
一方、酒におぼれ、一つの銃弾ですべてを失ったマットは図書館に寝泊まりする少年と師弟関係を結ぶ。この少年が拳銃を手にしてしまったときの画面に充満する不吉さと、マットのきっぱりとした言動は素晴らしかった。
この兄弟の物語と、立ち直ろうとするマットの苦闘が重なりあいラストを迎える。このとき、これが 1999 年の話で、マットが図書館で少年に出会っていたということが不思議なほど響いてくる。悲惨な事件のいきさつに、マットがどのような決断をしてもおかしくはなかった。でもそれが1999年で、マットのアパートには少年がいて、彼の書いた絵があって、というところから別の物語が立ち上がり始める。
すばらしいラスト。