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雨降り

幽霊について

貧しい私のヒーロー

映画

kingsman-movie.jp

監督:マシュー・ボーン

原題:Kingsman The Secret Service

2014年 イギリス

 ハリー・ハート(コリン・ファース)は高級スーツ店に勤めるテイラー、というのは噓で、実は国境のないスパイ組織「キングスマン」に所属するスパイだった。ある日、組織の一員が任務中に殺されてしまい、その代わりに新人をスカウトすることになる。ハリーは、自分を助けて死んでしまった同僚の息子、エグジーを後継に抜擢し、指導にあたる。一方その頃、科学者の失踪事件が頻発していた。そこでは首謀者ヴァレンタインの恐ろしい計画が遂行されつつあった。

貧しいエグジーが英国紳士になるまでの物語、ではないところがポイントで、そこが良いところだと思いました。
ハリーにはハリーの了見や必然性があってエグジーを一流の紳士、そしてスパイに育てようとしますが、そのひとつに彼の信念があります。生まれなど、引き継いだものよりも教育でこそ人は一流になれるということ。
ハリーを演じたコリン・ファースはインタビューでハリーについて次のように答えています。
政治的な視点にはあまり共感できないな。イギリスの伝統に強い愛着を感じすぎている男なんだ。勇敢で、エグジーに対する献身ぶりが魅力的な点だ。自分の過去の間違いから学び、彼を救おうとするんだよ。*1
ですが、上司のアーサーに比べればハリーははるかにリベラルで、劇中でその点に関して対立したりもします。エグジーを信じたこと自体にハリーの革新性が表れています。彼が目指しているのは最初から、エグジーが伝統的な英国紳士たるふるまいを身につけることというよりは、自由になることです。
ハリーはエグジーを搦め捕る家の事情や街の環境、そして彼自身の劣等感から引き離して教育を与えます。コリン・ファースが言うように、その献身こそが見どころです。
だからこれは極めて近代的な話。人間は身ひとつで生まれてきて、死んでいくという点で平等であるという信念にもとづいた話で、伝統や文化の匂いをまとわせてはいても、それらはあくまで選択可能な意匠の一つで、本質ではない、そういう態度に貫かれている。
そうしたところに不満を感じる人はいるだろうなあと思いながら見ました。
私はそれほど経済的に豊かでない土地で生まれて、いまでも貧しさにおびえているので、エグジーが鏡に映る自分を眺めて肩を落とす場面や、ハリーにつれられて鏡の前に立たされる場面にはついどきっとしてしまいました。
おもしろかったです。
貧しくて、なんにも持ってない自分には、とても楽しい映画でした。
同じ監督の「キック・アス」は見た後にちょっと落ち込んでしまって「楽しかった」とは言いがたかったのですが、今回は楽しかったです。「がんばれ、がんばれエグジー!」と思いました。