プール雨

幽霊について

コーヒー映像 (7) コーヒーカップが待ち構えている

『RONIN』

原題:RONIN

監督:ジョン・フランケンハイマー

1998 年、アメリ

パリ、モンマルトル。夜更けにサム(ロバート・デ・ニーロ)は長い階段を降りていた。階段の先にはパブ。出入りする人々の慕わしげな姿が見える。サムは裏手にまわり、ドアの位置を確認すると拳銃を隠した。パブにはディアドラ(ナターシャ・マケルホーン)、ヴィンセント(ジャン・レノ)らがいた。そこにスペンス(ジョーン・ビーン)、グレゴール(ステラン・スカルガルド)、ラリー(スキップ・サダス)らが加わり、ある人物から銀色のケースを奪ってほしいという依頼を聞かされる。経歴も本名も互いに知らない、国や組織といった雇い主を持たない 6 人はアタッシェケース奪取のために共闘するのだが……。

日本での公開は 1999 年。1999 年 というと、「スターウォーズ エピソード 1」が公開された年。大騒ぎだった! それに「マトリックス」もあった。小さい子たちがキアヌ・リーヴスのモノマネを路上でしていたなあ。「ファントム・メナス」、「マトリックス」、「サイコ」、「シックスセンス」が同じ年公開なんだと思うと「シックスセンス」の時の流れと無関係な感じすごい。それに「メリーに首ったけ」、「バッファロー '66」、「ラン・ローラ・ラン」、「シュウシュウの季節」、「ゴージャス」……この年もこの年なりに映画界は大騒ぎだったのですね。

そして、完全に見逃していた「RONIN」、「好きだと思う」とDVDを貸してくださった方がいてじっくり見ることができました。大好きでした。

この映画は前半後半でがらっと様相が変わる。前半は互いを知らないまま依頼を受けて、計画し、実行するところまで。後半はその計画が失敗し、事態の一部が露見し、主人公たちが真相究明に向かう。前半では一般市民に犠牲者が出ることなく物事が推移し、そこから彼らの元々の職業が窺い知れる。後半はそれがぐらっと崩れて、たまたまそこにいただけの人々が銃弾に倒れる。しかも舞台が観光地と来ているのでとても怖い。

さっき、「主人公たち」と呼んだのはロバート・デ・ニーロ演じるサムと、ジャン・レノ演じるヴィンセント。サムは、ほとんど内心を見せないし語らないので、最後の最後まで何を考えているかわからない。ヴィンセントはこのサムと語り合わないまま友情めいたものを結び、互いに飲み物や煙草の火を分けあい、そして互いの命を助けるに至る。誰が何者かわからないこの映画にあって、サムとヴィンセントの連帯は、唯一観客がほっとできるところ。ヴィンセントとサムの、言葉よりはるかに雄弁な目の表情に何度もほっとした。特にヴィンセントはただ一人、内心が窺い知れる人物で、言葉少なな彼がぽつっと漏らす「助かったよ」「恩人だ」といった本音は、真っ暗闇の中に据えられた白い巨石のような役割を果たす。コーヒー代を彼が払うと言い、次は俺が払うとサムが言う場面には感動してしまった。

前半の、作戦場面で印象的な役割を割り振られているのがコーヒー。

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ポットの中身はコーヒー。このコーヒーによって、能力が低く作戦にとって不利益をもたらす人物と、作戦に紛れ込んだ敵が炙りだされる。サムは並々と注いだコーヒーカップで相手を挟み撃ちにして、確認する。そして自分にとって信用できる人物を絞り込み、生き残ろうとする。

当然のことながら、事態が大きく動く後半ではコーヒーの場面はぐっと減ってしまう。

撃たれたサムとヴィンセントが一時潜伏する場所で飲んでいるのはおそらく紅茶だったと思う。

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ティーカップだから。

こうなってくると、コーヒーを飲んでいたあの頃が懐かしい。サムはまだ撃たれていないし、シルバーのケースはあるべき場所にあった。

コーヒーが雄弁に語る場面は後半にも、一箇所ある。この場面がとても素敵だ。

長い階段、路地、高低差の激しい道、Y 字路、コーヒー、森に住む偏屈な老人、カーチェイスそしてフィギュアスケートと見どころ満載。これで猫が出てきたら気絶しそうっていうくらい、私の好きなものがてんこ盛りで、思わず二回連続で再生してしまいました。