プール雨

幽霊について

Based on a True Story 2016

" (Movie) based on a true story" の但し書きを目にすると、それを見るかどうかかなり迷います。映画を見るまでの手続きがめんどくさいし、見た後も「あー、おもしろかった!」で済まないし。

まあでも、そうでなくても大抵は「あー、おもしろかった」では済まないのですが……。

 

11 月 26 日@立川シネマ

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ(字幕版)

原題:Genius

監督:マイケル・グランデージ

編集者マックスウェル・パーキンズの元に、まだ無名だったトマス・ウルフの原稿が持ち込まれた。パーキンズは編集者として献身的に作品作りに打ち込み、トマスもそれに応え、第一作『天使よ故郷を見よ』が完成した。それはベストセラーとなった。

コリン・ファースジュード・ロウニコール・キッドマンガイ・ピアースローラ・リニーといったスター俳優たちのきらきらした姿が見られます。みんな好き放題、やりたいように演じている感じで、生き生きしている。「扱いにくい天才」という主題が過去のものになりつつある現在だからこそのバランスがあって、ゆっくりと見ていられる穏やかさがありました。上手く言えないのですがメモ的に書くと、時々映画を見ていて発生する、追い詰められるような、おどされるような感じと無縁で、それがとても良かった。ゆったりと考えることができました。

 

11 月 26 日@立川シネマ

ブルーに生まれついて (字幕版)

原題:Born to Be Blue

監督:ロバート・バドロー

チェット・ベイカーがヘロインに溺れ、売人たちに殴られ顎に大怪我を負い、再起不能と言われた時期、そばにはジェーンという女性がいた。

『6才のボクが、大人になるまで。』や『ビフォア・ミッドナイト』といったリチャード・リンクレイターとの長い共作が終わった後のイーサン・ホークは『ドローン・オブ・ウォー』といい、この作品といい、それまでは演じたことのなかったタイプの人物、演出に挑戦しており、それらがことごとく成功している印象で、ちょっとすごいと思っています。この『Born to Be Blue』は実話に材を取ったとは思えないシャープな仕上がりで、おもしろい。含みやはぐらかしがなく、ただただ痛ましい。「偉大であれ」という声に、自らの不幸で応じるという倒錯があって、ひたすら悲しい。

 

 

11 月 30 日@シネマート新宿


映画『弁護人』予告編

監督:ヤン・ウソク

2013 年 韓国

1980年代、軍事政権下の韓国で、高卒から弁護士となり、税務弁護士として日々の糧を得ていたソン・ウソク(ソン・ガンホ)は、食い詰めていた若いころから世話になっていた食堂の息子ジヌが国家保安法違反容疑で逮捕されたことを知る。かつては大学生がデモをすることにすら批判的だったウソクだが、実際によく知るジヌが逮捕され、拘置所に出向いて彼の心身に拷問の後を見ることで、衝撃を受ける。その裁判を通じて彼は法を司るものとしての意識に目覚めていく。

韓国の五人に一人が見たという大ヒット映画。弁護士時代の盧武鉉元大統領が担当した冤罪事件「プリム事件」を元にした物語で、苦学の末に資格を取り、税務専門の弁護士として成功していたウソクが民主主義に目覚めていく過程を追う。

おもしろかった。ウソクが世話になった恩人の息子、ジヌの苦境を目にして一も二もなく弁護を引き受けてしまうその速度、つまり、人の尊厳がふみにじられる現場で尊厳の回復に尽力することに目覚める速度がおもしろかった。ウソクは実際にジヌの拷問の跡を目にするまでは行ったり来たりするのだけど、一度目にしたら、思考の質自体が変わってしまう。その一線を越えたら、後はもう、話はシンプル。

映画のそこここに繊細な工夫があって、観客が笑顔を浮かべて映画館を出られるよう尽力しているなと感じました。映画が「傷ついた人々」を観客として想定しているなとも感じました。

 

というわけで、今年見た実話ものは結局どれもとてもおもしろかったし、「ハドソン側の奇跡」も含めて、個性的で、後々まで色々と考えたり調べたりせずにいられないところまで全部、おもしろかったです。