『修羅 黒衣の反逆』
原題:繡春刀 修羅戦場 Brotherhood of Blades Ⅱ : The Infernal Battlefield
監督:ルー・ヤン
2017 年 中国
明朝末期。錦衣衛(公安みたいな感じかな)に務める沈煉は絵師・北斎の逮捕を命じられる。絵を通じて政治批判をしたからだという。北斎の絵を愛する沈煉は任務との板挟みに苦しみ……
と、あらすじをしたためようとして、この後(ここまでで映画開始 20 分ほどでしょうか。シークエンスとしては上記のエピソードは三つ目。ここまでにサルフの戦いなど、時代状況の説明がありました。時代状況の説明をされたところで謎は深まるばかりなのですが……)起こったことを一言で言うと、
流されて……
としか言いようがないため、あらすじに要約できませんでした。
予告を見ると、「よくわかんないけど、実直なお役人であるところのチャン・チェンが腐敗した権力という巨悪と戦うのかな?」って感じなんですけど、初手からどうもそういう感じでもなく、それなりに主人公も、
流されて……
流されて……はっと気づくと、殺人、流されて……行きがかり上まさかの、放火、流されて……何がどうしてそうなったかよくわかんないけど、逃亡、流されて、流されて、流されて…………
とにかく、チャン・チェン演じる沈煉という人が、すぐに流されてしまうのです。いい人なのかもしれないけど、ふにゃふにゃしている。雨の中、傘を女性にさしてもらうとそれだけであっというまに恋に落ち、その女性が政治犯としておわれる身になっていると聞くとよく考えもせず救出に向かいよく考えもせず同僚の首をしめ、そして同僚が死ぬと慌てる。
あまりに慌てるので、「あれっ? 人間の首をしめてどうするつもりだった?」と不思議な気持ちになります。
みどころは、極度に口数の少ないこの沈煉という人の眉間の辺りに、すべての情報が浮かぶこと。眉間にじわ〜んと感情が浮かぶこと度々なので、見逃さないで。そこを見て、「あっ、困っているな」とか「あっ、多少、頭に来てるな」とか「好きになっちゃったのだな」とか判断できます。だからといって話が見えるわけではないのですが。また、裴綸という、非常に職務に忠実で、乗りかかった船にはきっちり最後まで乗り切るという見上げた御仁が登場するので、これからご覧になる方は彼に頼るのがよろしいのでは。「見る/見ない」の二者択一で迷っておられるのなら、ご覧になった方がさっぱりするでしょう。以上です。
『マンハント』
原題:追捕 Manhunt
監督:ジョン・ウー
2018 年 中国
ドゥ・チゥ(チャン・ハンユー)は顧問弁護士を務める製薬会社のパーティから帰ったところで何者かに襲われ意識を失った。目覚めると横に死体があり、まもなくその嫌疑が自分にかけられていると知る。罠にはめられたと気づいた彼は逃亡を図る。刑事・矢村(福山雅治)もまた被疑者ドゥ・チゥを追う過程で違和感に気づく。
始まった瞬間、「ここはいつ? これはどこ? 私は何?」という気持ちになります。
いきなり。
比喩ではなく「いつのどこのだれ」かわからない。
そして、「この映画はどこに行ってしまうのー!?」と思っているとあっという間に鳩が舞います。今回、鳩の出番が早く、思いがけない。真っ昼間、小高い丘の上に謎の鳩小屋があり、まずその絵面が怪談チック。そして、ジョン・ウー史上でも他に類を見ない……
……
まあ、そんなこ細かいことはどうでもいい。
細かいですよ。
鳩の飛ぶタイミングと飛び方なんて。
突然のことで恐縮ですが、お嬢様んちには馬がたくさんいるのです。床の間には刀剣があるのです。それ、まじ刀剣。飾りじゃないの、刀剣は。矢村こと福山雅治っていうか、福山雅治がぽーんと蹴り飛ばして華麗に刀で舞うという。BUSHIDO。そんで、お嬢様んちで働いている人たちが、なぜ、どうしてそうなのかはわからないのですが、特にヤクザというわけでも特殊部隊というわけでもない、ごく普通の方々なのですが、まあこれがほんとにすんばらしー身のこなしを見せる。
もちろん、二丁拳銃もあるよ!
ばかみたいに豪快。
ああ、でも涙がとまらない。自分の飢えに気づいてしまった。こういう豪快さに、私は飢えていたのです。
は〜〜〜〜〜さっぱりした! 実際にはかからない「Get Wild」が聞こえました。
もうとにかく見て。そして私をどうののしってくださってもかまわないわ。年がら年中おすすめです。
『15 時 17 分、パリ行き』
原題:The 15:17 to Paris
監督:クリント・イーストウッド
2018 年 アメリカ
スペンサー・ストーンは女手ひとつで自分を育ててくれている母を愛しながらも、問題ばかり起こしてしまう自分にうんざりしていた。やはり母子家庭で、隣に住むアレク・スカラトス、それにアンソニー・サドラーとは幼なじみで、アンソニーが公立の学校に転校してしまうまではいつも一緒だった。大人になり、軍の募兵センターのそばのジェラートショップで働くようになったスペンサーは自分も空軍パラレスキュー部隊に入りたいと思うようになる。その夢を聴いたアンソニーは「その腹じゃ無理だ」と笑う。奮起したスペンサーは体を鍛え……
2015 年にヨーロッパで起きた無差別テロの話を見に行ったつもりが、はっと気づくとぽっちゃりした、意志の弱そうな少年の悩みを聞いている。スペンサーくんです。スペンサーくん、別に悪い子じゃないんですが、まあ、ぼんやりしているのかなあ。本人に悪気はないのですが、気づくといろんなことをしっちゃかめっちゃかにしてしまう。でも、それで開き直ったりしないところが彼のいいところで、それはもう毎度毎度海より深く反省します。それだけでもえらい。ただ、ぼんくらです。いいぼんくら。人のせいにしないし。
この話、この調子で書いていくと日が暮れるので途中すっとばして……というわけにもいかない。
そういうわけにいかないのが不思議です。
要約できない。
見終わってしばらくして考えたのが、この主人公たちって、おそらく大統領選はトランプに投票したんだろうなあ、仮に投票しなくても、トランプさんの言うこと、一理あります、くらいには思っているんだろうなあってことで、そういう、自分とは縁もゆかりもない子たちの来し方とか、ちょっとしたバカンスとか、信じられないような一瞬とかをまざまざと見せられて、「幸あれ!」と心から思えたのが嬉しかったです。
すーごい、不思議な映像なので、「何これ!」ってなる方もいらっしゃると思いますが、おすすめです。これまた後でどれほどののしられようとかまいません。映画館でどうぞ!
『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』
原題:妖猫伝 Legend of the Demon Cat
監督:チェン・カイコー
2017 年 中国・日本
若き僧侶、空海は密教の教えを請うために唐に来ていたが、山門をくぐることすら許されず、「しょうがない、そろそろ帰るかな」と考えていた。そこに、病に伏す皇帝を診てほしいと依頼があり、参上してみると、黒猫の陰が……
ってことでえいやっと臨み、ぽーんと跳ね飛ばされました。
これは、私の塩梅の問題なのですが、途中の、猫ちゃんの「来し方」告白ターン=「長恨歌」ターンでかくーと寝てしまい、果たして「見た」と言っていい状態なのか、かなりあやしい状態です。
でもほら、「長恨歌」は知ってるから。
大丈夫大丈夫。
だいじょう……
告白すると、「ドクター・ストレンジ」でも寝そうにはなったのです。つまり私は、マジカルな映像に弱いのですね。
マジカルでしたよ!
ぱ〜〜〜っといろいろと花開いてねえ。ぱ〜〜〜〜っとなったよねえ、脳内麻薬が。
でも私、思うんです。
この「空海/妖猫伝」を見る人生と見ない人生、どっちがお好みかな? って。「ウルヴァリン:SAMURAI」を映画館で見る人生と見ない人生、あなたはどっちを選ぶのかな? ニコラス・ケイジの新作を映画館で見る人生と見ない人生、どっちがいい?
答えは風に吹かれています。