プール雨

幽霊について

トニー・スタークに賭ける

サノスみたいに、起きて寝言を言うタイプの人はどうすればいいのかなって思いました。

起きた状態で真剣に寝言を言って、しかもそれを実現しようとする人の厄介さは格別なものがあります。周りが「寝言は寝て言え」と釘を刺したくらいでは決してやめず、じゃあってんでよってたかって説得工作に出たりしようものなら情熱はいよいよ強くなるばかりで、その過程で「完全におかしなことになってるぞ」という事態が出来しても引き返してくれない。

「やめる」とか「棚上げする」とか、そういうことがどうしてもできなくて、まわりからは「あいつは言い出したら聞かないから」と天災扱いになっている。そんな人がみなさんのまわりにもいるんじゃないかと思いますが、私のまわりにもいます。辛いです。

人類は、こういった寝言に言葉で対処するための決定的なアイデアをまだ持っていないように思います。

なんと言っても、彼らには意志があります。正確に言うと、本人が意志と信じている心理的・身体的状態があり、このせいで彼ら……サノスはひっこみがつかない。

サノスの場合は特に「よかれと思って」やっているわけだから、よりひっこみがつかない。

サノスの故郷は、ジェノサイドにより荒廃しています。彼のアイデアによれば今頃復興できているはずなのに、そうなってないという重大な事実に目をつぶり、人間が半分になればバランスが回復して万事まるくおさまるという恐ろしく雑な妄想の実現に邁進するサノスさんです。

どんな反証も彼の意志を変えることはできないでしょう。なにせ、積み重ねた思考ではなく、意志だから。

一方、アベンジャーズガーディアンズが属す現実の側には事情があり、はりめぐらされたネットがあり、失って困るものがあります。

多数派に属しているように見えるかもしれないが、実際には個々に独立している。それぞれに了見と事情があり、サノスとそのチームのように単純ではない。

彼ら彼女らはいつもサノスの意志に脅されている。サノスの言葉に耳を傾けてなにかこうかくっとずらされたような感じを味わいつつ、現状において彼との対話は無理であることを予測しつつ、対話を試みるが、サノスのシンプルな恫喝や脅しの前にリアルな事情や了見や愛情やまして、しがらみなどひとたまりもない。

そうこうしているうちに大事なものを失う。

自由と命を失うのだ。

サノスは全宇宙のバランスを保つためにジェノサイドを行わなければならないという意志に取り憑かれていて、この突拍子もないアイデアのために、アベンジャーズガーディアンズも最初から後手を踏まされている。

これはどこからどう見ても負け試合。

ただこちらには一つだけ希望が残っていて、それがトニー・スタークという人だ。トニーは整備士で、壊れた物を直し、改良し、そこからアイデアを得て新しい物を生み出し、そしてまた直し、ということを繰り返して生きている。彼は常に目の前の現実を整備することに尽力してきた。

トニーは意志と物語のロジックとは別のところにいて、決して大きな物語に回収されることがない。彼が紡ぐのは小さなスピーチに過ぎない。ほんの少し目の前のことをよくするだけの、小さな話の積み重ねがトニー・スタークで、そんな彼がいるということだけが、希望をつなぐ。

「インフィニティ・ウォー」とは、そんなお話。トニー・スタークに賭けてみようと映画は言っている。ぎりぎり、悪くない話なような気がする。

と、いうわけで「アベンジャーズ」はどこか、人を真面目な気持ちにさせてしまうシリーズです。

特に前作「エイジ・オブ・ウルトロン」はまじめが極まって、「早朝、産経日経読売毎日朝日東京赤旗と新聞をなめるように読み尽くし、その後ネットでもニュースをチェックした」くらいの疲労に包まれました。

それで「アベンジャーズは卒業しよう。まじめすぎる」と思ったのですが、「アントマン」と「ドクター・ストレンジ」「スパイダーマン:ホームカミング」「ブラックパンサー」によりまんまと引き戻され、「インフィニティ・ウォー」に至っては二回見てしまいました。トニーはじめ、どんどん人々の表情が研ぎ澄まされていって、今作に至っては全員天使なんじゃないかと思いました。特にロケットの目が印象に残りました。目の演技が印象に残るなんて、映画ならではだなあと思います。

そんなわけでびっくりしたし、とても悲しかったけど、大満足です。

 

※アップ時、サノスさんの名前を間違えて「サウル」としていました。申し訳ありません。サウルさんは息子を担いで移動した人でした。「サ」しかいっしょじゃなかったです。ごめんなさい。

 

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