プール雨

幽霊について

2018 年上半期を一ヶ月かけて振り返る(2)映画トップ 12 をフィギュアスケート女子シングル FS にたとえると

リンクサイドではコーチが余裕の表情です。名前がコールされました。選手、にやっと笑った後、こちらがひやっとするようなスピードでリンク中央に出、ぱっとポーズを決めます。
いきなり盛り上がる音楽、突然のトップスピード、そこから驚きの大きさ、「トリプルルッツからのコンビネーションジャンプ、3Lz+3T=スリー・ビルボード」! ミルドレッド! ディクソン! ウィロビー! 騒然とする場内、華麗なターンからなんとこれは美しい……「単独のトリプルフィリップ、3F=ロープ」。完璧なインサイド・エッジから跳ぶなめらかなカーヴが観客の心を鎮めます。続けて、まるでステップの一部のように構えもなくふわっと「ダブルアクセルからのコンビネーションジャンプ、2A+3T=馬を放つ」。どういう理屈で跳んだか今ひとつわかりません。二つ目の3Tが優雅です。これから先どうなるのでしょうか。
音楽が変わり、「フライングエントランスの足換えコンビネーションスピン=15 時 17 分、パリ行き」! 途中ちょっとぐらついたかに見えて、なんと振り付けのようです。不思議な演出ですが、場内は穏やかな雰囲気に満たされています。続けて、得意の「レイバックスピン=アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」。姿勢を変えるごとにスピードが上がる素晴らしいスピンです。おっと、選手、自分の勢いで目が回っているようです。大丈夫でしょうか。
さあ、後半、ほう、リンクを斜めにターンで突っ切ったかと思うとそのまま「トリプルループペンタゴン・ペーパーズ」! スケート好きにはたまらない、後半に入ってからトップスケーターが見せてくれる、スリーターンからの超特大ループ! 輪転機のSEが胸をざわつかせます……あっ、輪転機の音が電車に変わりましたね、これは、みんな大好きトップスケーターによる単独の「ダブルアクセルトレイン・ミッション」だ! よっ待ってました! 絶品です! 絶品です!
おやっ、電車のSEにこれは、ミッキーマーチ……? あっ、これは素晴らしい……「トリプルサルコウからの三連続ジャンプ 3S+2T+2Lo=フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」。場内、すすり泣きが聞こえます。2Lo のあとの決然と走り去る演技が胸を打ちます。そこに突然の銃弾の音、こんなところで「単独のトリプルルッツ3Lz=ゲティ家の身代金」! これは驚きです。こんなところでまさかルッツが、それもこれほどに完璧にコントロールされたルッツが見られると誰が予想したでしょうか。まるで長い、長い助走から跳んだかのようなルッツをターンの直後、跳んで見せました! ああ、そして雨の音が重なり、「ステップシークエンス=万引き家族」へ。なんと多彩なステップ、多彩なターン。じっくりとリンクを大きく使って見せてくれます。涙が止まりません。
と、そこへこれはアデル……? いや、セリーヌ・ディオン、「コレオシークエンス=デッドプール 2」! 好き放題にバレエジャンプをぴょんこぴょんこ跳んでいます。今までのは一体何だったのか、選手、明らかに笑っています。場内、泣きながら笑っています。ああ、地球上すべての作家の心に俺ちゃんが住んでいたら誰も死なずに済むのに……そう、心はひとつです!
最後は「足換えのコンビネーションスピン=アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」。くるーんくるーんと時間が戻ったり、戻らなかったり、やっぱり戻ったり、戻らなかったり、氷に足で書いた文字、Sorry……(バタッ)。えっ、これで終わり……!? まさか……えーーーーーーーどうなんのこれーーーーーーー!!

 

おしまい