プール雨

幽霊について

いかにして 2018 年夏をやりすごしたか(1)映画編

2018 年の夏は「人類、やってしまったなあ」という感じがして、正気を保つのがいよいよ難しかったです。

そんな夏に見た映画。

 

7 月 9 日(月)『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷

winchesterhouse.jp

ウィンチェスター銃の開発と販売で莫大な財を築いたウィンチェスター家の当主サラは屋敷の改築をし続け、500 もの居室を抱える奇怪な城に住んでいた。

ホラーというよりは「わ! びっくりした!」っていう感じの映画でした。道徳がかっちりした世界で、そういう部分では安心して楽しみ、びっくり箱演出で「うわっ」となりました。死者が銃を通じて実力行使をする、その銃の「死者と生者をつなぐ」というイメージがおもしろかったかな。

 

8 月 4 日(土)『カメラを止めるな!

kametome.net

ゾンビ映画の撮影に賭ける監督の「カメラを止めるな!」という声が廃墟にこだまして……

バックステージものが好きな人にはたまらない、楽しい映画でした。最初の 30 分に事件が起こって、その後種明かしが始まるのはすごくよくできたサスペンスドラマのようでもあって、わくわくするし、笑いも止まらないし、涙も出るし、感情が爆発できて素敵な二時間でした。「素敵な映画」という言葉がぴったりだと思います。

 

8 月 4 日(土)『ミッション:インポッシブル/フォールアウト
missionimpossible.jp

イーサン・ハントはプルトニウムを奪い返して人類を危機から救う。

『ローグ・ネイション』の勢いが止まらなくて生まれたとしか思えない珍作。冒頭の方では「そりゃないでしょ」ってことが続くのですが、二次関数的にどうでもよくなる。ポイントのひとつめが、イーサン・ハントがアイドルではなく主体だったということ。彼が全身で「死ぬかもしれない」「やばい」「今ほんとに死ぬかと思った」という表情をしているので、これまでみんなのスターでアイドルだったイーサンが初めて主体になったという気がしました。そして次に、そのイーサンの目から見るとベンジーはじめチームのみんなががすっかり頼れる存在で、みんながアイドル的にかっこよかったということ。特にベンジーがかっこよかった。イーサンの視点で世界を見るとなかなかこの世も輝いており、一瞬とはいえ憩いました。

また、私はどうもイーサン・ハントと女性の好みが似ているようで、「わかります、その気持ち」と思うことが多かったです。 

 

8 月 10 日(金)『沖縄スパイ戦史

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沖縄で住民を巻き込んで行われたスパイ戦を追った渾身のルポ。太平洋戦争末期にあって、少年たちを巻き込み、住民同士を監視させたその作戦の全貌が見渡せます。

戦争の法律は庶民や一般の兵士たちのことは守ってくれないと頭では知っていたことが身にしみました。少年兵たちを編成して作戦を遂行した隊長も当時は二十代になったばかりの若者で、将来の夢は学校の先生だったそうです。それが戦中のあれやこれやでスパイ教育を受け、沖縄での作戦に参加することになり、戦後はそのことにずっと苦しみ続けた。また、互いを監視しあった住民たちに話をうかがうと、中には激高してしまう方もいて、その人にとっては戦争はまだ終わっていないんだ、終わらないんだと思いました。

罪の構造の中に投げ込まれて、その構造をたたき壊すことも、そこから逃げることもできない、そういった苦しみを太平洋戦争、第二次世界大戦は今もって生み続けているんだと思いました。

 

8 月 15 日(水)『7号室』

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ビデオ個室店の7号室にある人物は死体を隠し、別の人物は麻薬を隠す。

商売がうまく行かずに食い詰めている中年男と、大学をかろうじて卒業できたものの、学費のために負った借金に追い詰められている若者とのドタバタ。途中まではかなりおもしろいです。「今、話全体の三分の二くらいまで来たのかな」と思っていると突然終わるので「あれっ」となります。でもそこまではかなりおもしろいです。

 

8 月 15 日(水)『ウィンド・リバー

wind-river.jp

雪原に少女の死体がある。

生きる速度の違う人物がぱっと現れて、間違えて、反省して、その土地の時間と寒さの中でじっと耐えてそして生き残る。そのとき、生き残ることができなかった人もともにある。そういうことが実現している。生き残った人物と逝ってしまった人物(たち)の間で主人公がやはりずっと耐えて、見つめて、そして話しかけ、朗読する。

 

8 月 18 日(土)『バンクシーを盗んだ男

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パレスチナイスラエルの間にある壁。この壁にバンクシーはいくつか絵を残した。そのうちの一枚、「ロバと兵士」が物議を醸すことになる。パレスチナ人はロバは自分たちを貶める意図をもって描かれたもの、と怒り、その絵を売り飛ばすことに決めた。

この件は全然終わっていないので、マイクを向けられた人々がとにかく主張するし、その主張のひとつひとつが長い。「字幕を読むのが大変」なんて初めて味わいました。途中で芸術作品とその文脈ってことにかんして議論が行われるけど、あのくだりのせいで壁そのものについての視点が弱まった気がする。

 

8 月 18 日(土)『オーシャンズ8』

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デビーは刑務所を仮出所すると、墓参し、ルーに迎えに来させた。ルーは外でデビーを待っていた。

 まず、デビーとルーのツーショットの豪華なこと。「平凡な主婦」のふりをしているタミーの喜びに溢れた姿。始終嬉々としているダフネ。いざというときに予想外の仕方で頼りになるローズ。楽しかった。デビーを演じたサンドラ・ブロックの、だれが相手でも二人組になるとなんとも言えず絵になり、相手を美しくしてしまう希有な才能にうっとりしました。今後の人生はこの映画のように行きたい。

 

まとめ

この夏は『ウィンド・リバー』の印象が強くて、見て即サントラを買いました。夏中聴いていましたが、それで涼しくなるということは残念ながらありませんでした。秋、冬と引き続き聴いていこうと思います。

沖縄スパイ戦史』も『ウィンド・リバー』もそして『オーシャンズ8』も日々が死者とともにあるという点にかんして共通していました。この姿勢を基本とする限りは踏み外さないで済むかしらと自分にも期待しています。