プール雨

幽霊について

2018 年に読んだ本メモ(読んだ順)

  1. フィリップ・K・ディック『時は乱れて』……どうってことない日々の風景が激変する最初の瞬間。思わず冒頭を書き写してしまった。
  2. 清水潔『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』
  3. 清水潔『桶川ストーカー殺人事件 遺言』……上記と合わせて二冊一気に。こういうことはテレビ局や出版社のスケールがなければできないこと。ネットではできない。
  4. デボラ・E・リップシュタット否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』……歴史や言語、教育に関してはだれもが当事者。でも、当事者であるからといってプロだということにはならないわけで、ネット上の言説を見ていると、歴史、言語、教育について多くの人がでたらめをでたらめと思わず書いている。そうしたでたらめとプロの研究を対置させてはいけない。比較できないものを比較するのはまちがい。
  5. アガサ・クリスティー『スタイルズ荘の怪事件』……ポアロ登場。
  6. 春日武彦×平山夢明サイコパス解剖学』……誤植も多いし、つくりが雑な本だった残念。
  7. 門井慶喜銀河鉄道の父』……無力さに食い尽くされそうになる宮沢賢治という新しいイメージ。
  8. アガサ・クリスティー『ゴルフ場殺人事件』
  9. アガサ・クリスティーアクロイド殺し……ポアロ。どちらも再読。『アクロイド』は犯人がわかった上で読んだ方がむしろおもしろい。初期の作としてはやはり完成度が高いように思う。
  10. 映画秘宝 底抜け超大作……病床で通読。
  11. エラン・マスタイ『時空のゆりかご』……おもしろかった、楽しかった!
  12. 國分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学 』……ハラスメントを記述する際、どういう構造のなかに彼ら彼女らそして私たちが置かれていて、どのような理路のなかで「ほんとうは受け入れたくないことをまるで自分の意志であるかのようなかたちで飲み込まされるか」を見ていくことが、そして、そのような視点を社会で共有することが必要。「意志」は個人のものではなく、社会が想定し、要求する仕組みのようなものだから、「意志」「責任」「動機」といったことを個人に向けて尋ねている間は実態に即した記述はできない。
  13. 丸山正樹『龍の耳を君に』……おもしろかった!
  14. 黒田龍之助『外国語を学ぶための言語学の考え方』
  15. 黒田龍之助チェコ語の隙間 東欧のいろんなことばの話』……なにか語学を学ぶ際に、言語学の視点をもつこと。
  16. アガサ・クリスティー『ビッグ4』……ポアロ。スパイもの。
  17. 津村記久子江弘毅『大阪的』……ルールのわからないゲームに放り込まれたような感覚。
  18. リー・ツンシン『小さな村の小さなダンサー』……村の暮らしをすぐそばに感じる。
  19. 田村隆一『ぼくの交響楽』……戦後という苦い時代、彼が書き付けた違和感が今爆発している気がする。
  20. ミシェル・ウエルベック服従……こわい。
  21. パトリシア・ハイスミス『11 の物語』……こわー。
  22. 竹中亨『明治のワーグナー・ブーム』……音楽に実際に触れる前に、言葉に触れていたということ。聞く前からふくらんでいた期待と物語。
  23. 都築響一『世露死苦現代詩』……小田嶋隆『ポエムに万歳!』とセットで。
  24. アガサ・クリスティー『青列車の秘密』……ポアロ。「オリエント」への道。
  25. 色川武大『うらおもて人生録』……おもしろかった! 自分だけが感じる、自分のための宗教をつくるような感じ。だれにでも必要な営み。
  26. 池谷 裕二『脳はなにかと言い訳する』……「やめる」っていう判断はとても高度なもので、それが人間にとってもコンピュータにとっても難しく、とくにコンピュータにはできない。人間、がんばる。
  27. 笹原宏之『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば』……著者が調査中、外で待たされていたお子様がつっぷして泣き出したくだりに感動。
  28. 大澤真幸『美はなぜ乱調にあるのか』……再読。なのにいまひとつ思い出せない。
  29. アガサ・クリスティー『邪悪の家』……ポアロヘイスティングズと仲悪い。
  30. スティーヴン・キング『夜がはじまるとき』……おもしろかった!
  31. 笹川洋子『日本語のポライトネス再考 発話行為・発語媒介行為・相互行為』……脱・文脈依存について考えた。
  32. 三森 ゆりか『外国語を身につけるための日本語レッスン』……外国語に訳せるような日本語を話す、ということについて考えた。行政の場では特にそうあってほしいと思うけど、国会中継なんかで聞く言葉遣いは記者の追記がなければ意味が通らないことが多い。高度に文脈に依存していて、フェアじゃないとすら感じる。
  33. 真魚 八重子『映画なしでは生きられない』……楽しかった。
  34. 小森陽一(編著)『「ポスト真実」の世界をどう生きるか ウソが罷り通る時代に』……未だにPCを使わず、ネットにほとんど触れない著者がその道のプロに教えを請う。おもしろかった。
  35. 雨宮処凛『非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望』……この人の、根っこの部分が明るくできている感じがおもしろい。やっぱり名文家だと思う。
  36. ジャッキー・フレミング著、松田青子訳『問題だらけの女性たち』……真理に触れることだけが人間を救う。
  37. 小森陽一編『手塚マンガで憲法九条を読む』……解説つきで手塚マンガが読める。楽しかった。
  38. ダグラス・アダムス『ダーク・ジェントリー 全体論的探偵事務所』……これくらいのでたらめを私もさらさらとさらさらと口にしてみたいもの。
  39. 木原浩勝『九十九怪談 第九夜』……ちょっと食い足りない。
  40. 野矢茂樹『大人のための国語ゼミ』……復習。
  41. いとうせいこう & 星野概念『ラブという薬』……患者と担当医の対話集。精神科医によるカウンセリングで肝要なことは相手の思考のスピードを落とすこと、というのはなにかピンとくる話だった。真理にたどりつくのに、スピードは邪魔かも。
  42. 岩井志麻子『現代百物語 終焉』……シリーズラストにふさわしい豪華さ。すばらしかった。
  43. 柚木麻子『ナイルパーチの女子会』……悲鳴をあげるほどこわかった。こわすぎ。
  44. スティーヴン・キング『トム・ゴードンに恋した少女』……中盤のつらさがほんとつらかった。
  45. いとうせいこう『鼻に挟み撃ち』……楽しい!
  46. ゴーゴリ『鼻/外套/査察官』……楽しい。
  47. アガサ・クリスティー『エッジウェア卿の死』……ポアロ。謎の美青年がたんに美青年だった。
  48. 金田弘・宮腰賢『新訂 国語要説』……復習。
  49. 岡崎友子・森勇太『ワークブック 日本語の歴史』……復習。
  50. アガサ・クリスティーオリエント急行殺人事件……ポアロ。シリーズを順に読んでいくと、ここで「満を持して書いた」という感じが味わえる。そして、うーん、やっぱりケネス・ブラナーポアロは変。
  51. 苅米一志『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』……史学と文学で方法が共有されていないことに驚き。びっくりした。
  52. 穂村弘×堀本裕樹『短歌と俳句の五十番勝負』……楽しい!
  53. 古橋信孝、鈴木泰、石井久雄『現古辞典 いまのことばから古語を知る』……通読した。おもしろかった。
  54. ダグラス・アダムス『宇宙の果てのレストラン』……声に出して笑った。これくらいのでたらめを私もさらさらとさらさらと口にしてみたいもの。
  55. 司馬遼太郎『北のまほろば』……津軽を旅しながら読んだ。楽しい読書体験。
  56. 穂村弘『はじめての短歌』……煽られたり脅されたりする日々のなかで、ただ佇んだりじっとしたりする手法、文体を身につけるということ。
  57. 鯨統一郎『月に吠えろ! 萩原朔太郎の事件簿』……おもしろくなかった。
  58. 岡井隆『鉄の蜜蜂』……ハードボイルド。
  59. 山田正紀『カムパネルラ』……「45分」の新解釈に大笑いしました。楽しかった。
  60. 早川タダノリ『神国日本のトンデモ決戦生活』……とんでもないなあとひとつひとつ資料&史料を読みながら、以前はまさかこんな考え方、こんな生活を求める人が実在するなんて想像しもしなかったんだけど、今はこうしたことを好む人がかなりいることを知っているから、ぞわぞわした。
  61. 岩波講座哲学 05 心/脳の哲学』……ざっと復習。
  62. アルジャーノン・ブラックウッド『ブラックウッド幻想怪奇傑作集 秘書奇譚』……大体、「秘書奇譚」っていうタイトルがかっこいい。
  63. アガサ・クリスティー『三幕の殺人』……ポアロ。ちょっと変えてきたな、という感じ。
  64. 若竹七海『錆びた滑車』……葉村晶もの。彼女の集中力や、あまりメタ思考に陥らないところが功を奏して、語り手自身よくわかっていない後悔や切実な気持ちが遅れて、わっとあふれる瞬間があった。
  65. 上野千鶴子『情報生産者になる』……細かい、具体的。マスコミ関係の人にもおすすめです。
  66. 新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』……文章が厳密で読みやすかった。もっともっと手に取られてよい本だった。タイトルで敬遠してしまったような人にこそ読んでほしい。
  67. 櫛野展正『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート……遠くから見たらみょうちきりんなことでも、近づいて話を聞くと必然性のあることだというのがわかる。
  68. 原沢伊都夫『考えて、解いて、学ぶ日本語教育の文法』……復習。
  69. フリードリヒ・デュレンマット『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』(増本浩子訳)……めっちゃくちゃおもしろかった。
  70. アガサ・クリスティー『雲をつかむ死』(加島祥造訳)……ポアロポアロ、読破してみようというつもりで読み始めて、疲労がたまってきた。
  71. 沼口麻子『ほぼ命がけサメ図鑑』……文章が厳密で読みやすかった。「サメから見たらヒトは亀」というフレーズが心に残りました。
  72. アガサ・クリスティーABC殺人事件……ポアロ。中期の人気作。紅茶がぬるくてまずいとか、細部が楽しかった。中期はヘイスティングズがちょっと割を食っている感じがする。
  73. 宮田珠己『いい感じの石ころを拾いに』……自分はただの石ころを探しておきながら、翡翠を探す人を見ると暇人だなと思う、そんな勝手な筆者の右往左往がとっても楽しかったです。
  74. TOBI、奥野武範『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』……想像していたより遙かにひどい目にあっていてびっくりしたけど、それ以上にびっくりなのはその出会い。
  75. 片山杜秀荻上チキ『現代語訳 近代日本を形作った 22 の言葉 五箇条の御誓文から日本国憲法まで』……復習。じっくり整理しながら読みました。

 

とにかく、煽ってくるものや焦らせようとするもの、スピードからは距離を置こうというのが読書体験全体を通しての感想です。ゆっくり、じっくり、どこまで分節化できるか、どこまで多彩に表現できるか、自分自身の構えとしてはやっぱりそんな感じかなとあらためて思いました。