プール雨

幽霊について

コーヒー映像 (3) セブン

(ある種のネタバレをしています)

 
デヴィッド・フィンチャー監督のもと、デイヴィッド・ミルズ刑事とウィリアム・サマセット刑事のコンビをブラッド・ピットモーガン・フリーマンが演じたサイコ・サスペンス。
 
物語は月曜日の朝、サマセットが身づくろいをし、サーバーに残ったコーヒーを捨てるところから始まる。一方、ミルズも寝入る妻を気にしながらコーヒーを飲み干している。
一つ目の事件。
雨が降っている。
新任のミルズはボスのために、コーヒーを 2 つ持っている。それをサマセットは受け取らない。
 
火曜日、2 つ目の事件。
ミルズは現場検証が行われているところへ登場。そして「まずコーヒーを飲め」と捜査陣に指示し、途方にくれる。
 

(途方にくれるミルズさん)
 
サマセットはミルズに「失楽園」と「カンタベリー物語」を読めと言い置いて、図書館へ。
ミルズが現場写真を凝視するショット。サマセットが頁をめくる。個々に捜査を進める。
 
水曜日、雨。
ミルズはやっと署内に部屋が与えられる。そこにサマセットがいる。
ここで初めて、サマセットはミルズに笑いかける。
ミルズの妻から電話があり、サマセットは食事に誘われる。快諾して、ミルズの部屋へ。
ここで初めて、二人のファースト・ネームが出てくる。
食事後、一緒に事件の分析を始める。そこでコーヒー、ではなく、ミルズが「ビール飲むかい?」と言い、サマセットが「ワインを」とリクエスト。
 

(それぞれ、ビールとワインを召し上がりながら話し合う二人)
 
その後二人で捜査に出かけてしまう。ここで、〈とりのこされるトレーシー〉のショット。
 
木曜日、捜査進む。
 

疲労困憊のお二人)
 
ミルズはコーヒーを飲む。
ミルズ、かつて捜査で射殺してしまった犯人の名前が思い出せない。サマセットはそれをいたましく思う。
そこで 3 つ目の事件。
夜、トレーシーからサマセットに電話。
 
金曜日、トレーシーとサマセット。ダイナーで話し合う。サマセットのそばにはコーヒーらしきカップ
その後、サマセットとミルズ、捜査を進め、犯人に肉薄。
雨の中、犯人を追う。犯人が見えそうで見えない。
すんでのところで逃げられる。
ミルズのいらだちが大きな怒りへと変わる。
証人を買収して犯人の部屋を捜査し、手がかりを得る。
 
土曜日。
ミルズ、コーヒーを飲みながら移動。
そこで 4 つ目の事件。
夜、バーで酒を飲む二人。口論。
3 度目の、横になっているトレーシーのショットが入る。
 
土曜日、5 つ目の事件。犯人が出頭する。犯人は紅茶のティーバッグをもてあそぶ。まずそうな紅茶。
そして、最後の 2 つの事件が起こって、逆回転のエンドクレジットが流れる。エンドクレジットはきわめて短い。
 
というわけで、サマセットは、事件が始まってから、ほとんどコーヒーを飲んでいない。例外は、トレーシーから相談を受けるシーンで、一瞬コーヒーが入っているらしいマグカップが映る場面。ここでもじっくりとそれを口にするようなショットはない。基本的に、サマセットがコーヒーを口にする場面はないと言って良い。冒頭、自宅で、サーバーに残ったコーヒーを流しに捨てるのが映っているのが象徴的だ。サマセットにとって、コーヒーは休息のためにあるもので、むしろワインなど、アルコールの方が、仕事に勢いのようなものを与えてくれるようだ。
比して、ミルズは「仕事始めにまずコーヒー」派だ。だから現場にコーヒーを 2 つ持って行くのだ。雨の中、肩をふるわせながら、両手にコーヒーを持ってサマセットを待つ姿に胸を突かれないひとはいないだろう。このコーヒーをサマセットは受け取らない。彼は仕事中にコーヒーを飲まないからだ。だが、ミルズが手にするコーヒーはただのコーヒーではない。新しい職場で、新しいボスとの新しい仕事に野心をもって臨む彼にとっては、夢のつまった一杯だ。サマセットが何も言わずにそのコーヒーを受けとり、まずさに顔をしかめつつ、捜査手腕を見せる。ミルズも鋭いところを見せて、仲間として認めてもらえる。そのような希望がつまった一杯だった。しかしそれはあっさり拒否され、雨ざらしになり、また、そのコーヒー同様、ミルズまでもが現場検証に邪魔だという理由で外回りを命じられてしまうのだった。そのうっぷんを晴らすかのように、次の日、別の現場で一人現れたミルズは捜査員たちに「まずコーヒーを飲め」と言うのだった。
そんなミルズも週の後半になると、自分のペースでコーヒーを飲むようになる。特に誰に飲めということもなく、ミルズはまず一人で、コーヒーを飲む。
この事件のあと、ミルズは日常をとりもどせただろうか。「とりもどす」のは不可能だろう。しかし、それでもやってくるのが日常だ。ミルズを新しくとりかこむ日常の中で、コーヒーはどんな役割を果たしているだろう。