プール雨

幽霊について

幽霊だけが見える

コニー・ウィリスが好きだ。大好きだ。そして読むと必ず、「私は作家にはなれない」と思う。彼女のようにこの世を愛せないからだ。私はこの世界が好きでも嫌いでもない。ただの世界だとしか思えない。法律や倫理ではなく暴力に支配されるこの世界が好きでもなければ嫌いでもない。噓やでたらめや悪意に満ち満ちていて、決してまっすぐに目的地にたどりつけない、計画通りに物事の進まないこの世界に対して、うんざりしているし、めんどうだし、逃げ出したいと思わないでもないが、せいぜいその程度だ。

いや、厳密に言うと、「世界」のようなものを、はっきりと認識していないし、認識しないように少しばかり努力もしている。

どんな気持ちも、「人間」だとか「世界」だとかに向かっていけない。「人間」をおもいしろいとも、他の動物に比べて劣っているとも思わない。私にはそれを判断する能力がない。

時折、自分はなにも生み出せずに死ぬんだな、と思う。そしてそれが特段怖くもなければ悲しくもない。

ただ、幽霊を感じる。口から指から、幽霊がぽろぽろと生まれていく。あなたの口からも、彼の彼女の口からも、そして私の口からも。何かひとことこぼす度に、幽霊が生まれて、この世は幽霊でさわがしいことになっている。そして自分自身のことも幽霊だと思うときがある。

そう思うだけの毎日。「人間」や「世界」を愛したり憎んだりする機能がないかわりに、さわがしい幽霊を見ている。