プール雨

幽霊について

2016 年の秋は脈絡なく映画を見ていました

2016 年の秋は来る日も来る日もずっと雨か曇りで、いわゆる秋晴れを味わわないうちに冬に突入してしまいました。でも、そんなことも後で思い返せば、「えっ、そうだったけ?」てなことになってその時目の前にある気象状況に心が移っていくだろうと思っていたのです。

が、あまりにきついと忘れられないものですね。あの、くさくさする日々を今もありありと思い出します。きつかったあ。あまりにくさくさしていたので、よく考えもせず、隙を見計らっては突然映画館に赴いて見た秋映画は、もう全然脈絡なかったです。

 

9 月 30 日 @立川シネマ サメとしてのジェイソン・ステイサム

メカニック:ワールドミッション(字幕版)

原題:Mechanic:Resurrection

監督:デニス・ガンゼル

2016 年 アメリ

「メカニック」とは殺し屋ビショップ(ジェイソン・ステイサム)の呼び名である。殺し屋家業から足を洗い、音楽と酒の暮らしを堪能していたビショップの前に、かつてともに訓練を受けた幼馴染、クレインが現れる。

 ワールドミッションなので地球を縦横無尽にステイサム様が駆け巡るのだけど、どう見てもスタジオにしか見えないというか、最近ではサメ映画でしか見たことのなかった白いスクリーンをバックにしたアクションなどを見て胸が熱くなりました。心の支えは世界の美丈夫、ジェイソン・ステイサムのサメ感。海からざっぱーーーんと出て来るステイサムがおもしろかった。今年は新作のサメ映画を見逃していたので、「ああ、今ゴージャスなサメを見ている」と思えて嬉しかったです。

 

9 月 30 日 @立川シネマ 至高

ハドソン川の奇跡(字幕版)

原題:Sully

監督:クリント・イーストウッド

2016 年 アメリ

2009 年 1 月 15 日、マンハッタン上空 850 メートルでエンジンコントロールを失った航空機がハドソン川に不時着した。乗客乗員 155 人は無事だった。英雄と報道された機長(サリー)、副機長(ジェフ)はしかし、ハドソン川不時着の判断が正しかったのか、国家運輸安全委員会から厳しく追及されていた。

始まった瞬間から「あっ」という感じがする。普段見えていないものを今、まざまざと見ているなという感じ。基本的にシーンとしていて静かで、青みがかった冬の映像がひんやりとしていて、サリーが大勢の人々に囲まれたり、国家運輸安全委員会で追及されていたりするときですら静謐な雰囲気で、衝撃の 208 秒が繰り返されるというのに落ち着いて、じっくり見られる。落ち着いてじっくりと見られるけれども、片時も目が離せない。すごくおもしろかった。これはほんとにみんなにおすすめ。サントラも買いました。今年一番のお気に入り。

 

10 月 7 日 @TOHOシネマ新宿 スタイルとしての不躾さ

ジェイソン・ボーン (字幕版)

原題:Jason Bourne

監督:ポール・グリーングラス

2016 年 アメリ

ニッキーがジェイソン・ボーンにコンタクトする。CIA が世界を監視するための極秘プログラムを走らせたこと、そしてボーンの父についてのある情報を携えて、ニッキーはボーンに会い、そして……

初めてボーン・シリーズを見ました。とてもおもしろかった。弱気なようでいて不躾なカメラは、ちょっとふらふらした後突然人物に近づく。その不躾さは音にも現れていて、不快なノック、雑音まがいの音楽と、映像と音響の文体が一貫しているのがおもしろいなと思いました。でもその後にシリーズの最初から見てみたら、それ以上におもしろくて、遅ればせながらファンになってしまいました。

 

10 月 16  日 @立川シネマシティ 早く大人になりたい子どもたち

シング・ストリート 未来へのうた(字幕版)

原題:Sing Street

監督:ジョン・カーニー

2015 年 アイルランド、イギリス、アメリ

父親の失業で公立校に転校させられた14歳のコナーは、転校先で早速不可解な校則やいじめっ子への対応に追われていた。さらに両親の離婚は時間の問題で、最悪の日々。兄と一緒に見るミュージックビデオだけが楽しみだった。そんなある日、コナーはラフィナに恋をする。そして自分のバンドのミュージックビデオを撮るから、それに出てくれと話しかける。コナーは大急ぎでバンドをつくり、練習を重ねる。

 早くおとなになりたいと思っている子どもたちが主人公で、彼ら彼女らができることと言えば夢を見て、その夢を形にしていくことだけで、暮らしが貧しければ貧しいほどその夢は突拍子もないものになり、そこへ向かうのも驚くべきパワーが必要になる、ということを体の隅々まで納得できる映像の連続。おもしろかった! 中でもラフィナがとても魅力的で、ラフィナの美声がなければコナーくんだってあんなにがんばれなかったと思う。

 

10 月 27  日 @シネマート新宿 「テンポがいい」をほんの少し逸脱するスピード

 監督:チャン・ジェヒョン

出演:キム・ユンソク、カン・ドンウォン、パク・ソダム

2015 年 韓国

キム神父はヨンシンが悪魔に取り憑かれたことを知り、悪魔祓いに尽力するが、助手に次々と逃げられてしまう。そこで、神学生アガトが補助司祭に選ばれる。

ちょうどこの映画を見る直前に、BBCニュースで悪魔祓いが取り上げられていて、その中に、神父さんの次のような言葉がありました。

信仰のない人は悪魔も信じていない。しかし神を信じる人は、悪魔は存在すると知っている。聖書にも書いてある。その上で今の世の中の状態を見てみれば十分だ。これほどひどかったことはない。あまたの暴力行為は人間のやることではない。たとえば IS のように。本当にひどい。

www.bbc.com

これ、事前に読んどいて大変参考になりました。映画も「信仰のない人は悪魔も信じていない」ということが前提になっていて、一見不良神学生である主人公が補助に選ばれるのも、実は信仰に篤いからこそ悪魔を感じ取れるという能力を買われてのことで、更にはそこに元々ある土着の様々な信仰が入り込んでごった煮状態のところで悪魔祓いが行われるというところにおもしろさがありました。

テンポが予想より若干程度早く、実感として、「息をつく暇もなく」よりも更にワンテンポ速いタイミングで事態が推移するので、ほんとにびっくりして「わあ!」と声を出してしまいました。主人公が賛美歌を歌うシーンなんか、何ならそれで映画一本つくれるんじゃないかというくらい美しいのに、あっという間に終わる。