プール雨

幽霊について

はればれと寂しい

浅田真央引退で何ともいえず、そわそわした寂しい気持ちと、晴れやかな気持ちを同時に味わっています。

晴れやかな、というのは彼女のこれからを考えると、どんなショーをやっていくのかなあとか、どんなプログラムをつくっていくのかなあとか、そんなことです。彼女ならステップだけでダンスプログラムなんてのもできそうだし、ちょっとターンしただけで飛んでしまいそうなあの独特な雰囲気を活かした、小さいジャンプをいっぱい入れた曲も楽しそう。

それに、ラジオでの意外な美声も魅力で、そのヤング吉永小百合然とした佇まいと、しっかりした発言なんかからも、これからの彼女が楽しみです。

そわそわした寂しい気持ちというのは、やっぱり、旧採点方式から新採点方式に変わって、競技としては激動の数年が、ちょうど彼女(たち)の選手として一番いい時期に当たって、いろんなことがあったけれども、おしまいの方はほんとに素晴らしいプログラムを見せてくれて素敵だったなあ、という感じです。

悲運だったと言われがちな彼女ですが、そういう時期に選手だったのは浅田真央だけじゃないです。たくさん素敵な選手がいましたし、今も現役で続けている選手もいます。単に、浅田真央は多くの人にとって自画像のように思えたところがあったんじゃないかなと思います。浅田真央は悲運だった、と言っている人は、多分、自分自身の人生の苦々しさを投影してしまっているんじゃないかな。オリンピック銀メダリストで、三度世界選手権チャンピオンになり、現役ながら自身主催のショーもあり、大学では彼女のためにリンクをつくった。そういう人でありながら、多くの人にとって「私と同様に、恵まれない中頑張っている真央ちゃん」と見えたというのは、彼女自身の魅力所以とはいえ、私にはちょっと気の毒に思えていました。人々の心の穴にすっぽり入っちゃったのかなあ、とか。でも、そんな私の気持ちを吹き飛ばすほど、ここニシーズンの彼女のプログラムは素晴らしかった。特に 2016 - 2017 シーズンはエキシビションナンバーまで含めて、パッケージとしていて充実していて、大好きでした。衣装もかわいかったし。

競技の理想を議論してルールを設計して運用して検討して話し合って設計しなおして、という繰り返しの只中にフィギュアスケートがあった時代にトップスケーターとして競技に参加していた人たちも多くが引退して、ついに浅田真央も引退ということで、いよいよ、新採点生え抜き世代の時代だなと思います。

もちろん、そんな中でもカロリーナ・コストナーアシュリー・ワグナーミライ・ナガスといった選手たちはまだまだ選手として競技会に姿を見せてくれているわけで、それがほんとに嬉しい。ある程度年齢を重ねて、体もしっかりしているスケーターのスケートはやはり見応えがあって、リンクインした瞬間からわくわくします。できれば、一つの大会に 10 代から 20 代後半、30 歳くらいまでまんべんなくいてくれると、スケート好きとしては嬉しい。

ここ数年、全日本選手権を見ていると、ジュニアからシニアに上がったばかりの年齢の若い選手たちがほんとに上手で、指導体制の充実が伺えますが、彼女たちに大学に行ってからも活躍していってほしいなと思います。今は全日本の最終グループが 10 代の選手で占められているような、そういうめぐり合わせが続いていますが、このまま、樋口 新葉ちゃんたちも 20 代になって、見応えのあるプログラムを演じてくれると期待しています。最近のスケート連盟からリリースされる情報を見ていると、以前の場当たり的な雰囲気が消えたように感じることもあって、期待できるんじゃないかと思っています。