キム・ジャホン、消防士。業務中に死亡。
まだ自分が死んだことを知らないジャホンの元に、スーツ姿の「使者」が訪れて、あなたは予定通り亡くなった、亡くなったのは初めてだから緊張すると思うけど、気を楽にもって、何と言ってもあなたは子どもを助けて死んだ「貴人」なのだから、これから 49 日続く地獄の裁判でもかならず勝って、生まれ変わることができるでしょうという。
「貴人」なんて言われてもジャホンはそんなわけにはいかない、生きて母に会わなければ、会って、どうしても言わなければならないことがあるんだと抵抗する。
と、いうお話なのですが、見に行くまで予告を見ておらず、タイトルもうろ覚えでした。なぜ見に行ったかというとハ・ジョンウが出ているからです。
ハ・ジョンウといえば連続殺人犯だったりおじさんにだまされて服役してしまう人だったり北朝鮮の諜報部員だったりイヤフォンに爆弾をしかけられた元人気アナウンサーだったりと、それはもうヒドい目に遭ってきた方ですが、最近ですと崩落したトンネルに閉じ込められたりしてました。
あなたのハ・ジョンウはどこから? 私は『チェイサー』から。
ハ・ジョンウが出ていると聞けば、ろくろく内容もチェックせず「じゃ、見ようかな」と出かけてきました。
これはもう立派なファンだと思うのですが、映画館で「あの、あなたもハ・ジョンウさんがお好きなの!?」と輝く瞳で話しかけられると、「いえ、あの、決してそういう感じでは……」とまごまごしてしまう、不思議な感じです。
ただ、ハ・ジョンウが出ると聞くと「見る」と即決しますし、出てくるとなんとなくそれだけで満足。
今回は死者の地獄巡りをサポートする使者三人組のリーダー、カンニム役。無表情に任務を遂行しますが、わりとすぐ情にほだされてルールを逸脱しどえらい目に遭ってしまう、トニー・スタークタイプの頼りないけど好かれるヒーローであり、天使です。
さて、この映画。すんごく不思議なバランスで、そこがおもしろかったです。
まず、ファンタジー映画にありがちな「設定の後出しで物語を動かす」的なことがない。これは地獄巡りという東アジア一帯になじんだ、説明不要の設定が大きいですけれども、物語を動かしているのが基本的に主人公たちの心情であるという単純さが大きいのかなと思います。
次にもはや一大ブランド、韓国のアクション映画でありながら、アクション自体は控えめなところ。CGもワイヤーもありますが、それほど延々俳優達の肉体にものを言わせているわけではない。やらせれば何でもできる俳優達は要所要所ですっと構えたりちょっと走ったり飛んだりくらいはそりゃするのですけど、それがちらっとなのです。冒頭で「ちょっと待て、この調子で行くと、今回のハ・ジョンウも走らないの? え〜〜走ってるところ見た〜い」と思ったりもしたのですが、一瞬走る、即消える! ちょっと飛ぶ、即消える! 舟の上で剣を構える、狭いのであまり大きく動けない! という感じで、「かっこいいい!」の「かっ」くらいで止められる。しかしそれでも満足できる不思議な設計。
そして、冥界とこの世を行き来する使者でありながら、ミステリ部分の解明は実に地道なところ。主人公兄弟の人生には後悔もあれば罪もあって、これをほどかないことにはキム・ジャホンは母にメッセージを伝えられないし、カンニムたちも生まれ変わるチャンスを逃すことになる。そういうときに、カンニムは冥界の使者なのだから色々できそうなものなのに、意外とそうでもない。そこは地道な探偵のようにこつこつ現場に赴きます。カンニムがこの世でジャホンの弟、スホンのことを調べている間、警護役のヘウォンメクと弁護担当のドクチュンは必死でジャホンを守りながら裁判を経、そして時にはカンニムに助けを求めるというときの接続の仕方なんかも地味なんですけど、スムーズでよかった。
このミステリ部分に関して、背景にある「理」のようなものがかなり鷹揚なのがまたおもしろかったです。スポーツやゲームのような厳格なルールではなく、かといって、いいかげんな「いったもんがち」的な無法でもなく、確かに「理」ではあるのですけれど、それは実際に生きて動いていくカンニムたちの言動によって刻一刻形作られていくもので、その変化を閻魔も待っているという感じなのが豪快でよかったです。
鷹揚さといえば、主人公兄弟、ジャホンとスホンの関係も厳しくリアルな部分と、リアルであるがゆえに穏やかな部分と両方あって、実際、こういうことがあったらこうはいかないかもしれないというところ、つまり映画上の奇跡ポイントが「ああ、言われてみれば、こういうときにはこうするしかない、でも現実にはこうできなくてこじれちゃうんだよなあ、でも、そうだ、こうするべきなんだ」と思えるもので、そういう、「(かっこ)」つきのリアルさもよかった。
ファンタジーでアクションでミステリで、もっと外連味全開になっていてもおかしくないところを、不思議なポイントで制御していて、そこに独自性を感じました。最初の企画からここまで練り上げるのに、どういうドラマがあったのかなあなんて思うほど、作り手の粘り強さを感じる映画でした。
すぐ始まる第二章が楽しみです。