プール雨

幽霊について

2019 年兄嫁大賞

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兄嫁の愛を見よ

話は長くなるけど許して下さい。

2014 年。ジョン・ウー監督、金城武長澤まさみ主演で制作された映画『太平輪』カンヌ出品、中国公開といったニュースが続き、私は浮かれていました。大好きなジョン・ウー。大好きな金城武。大好きな長澤まさみ。はーーーー!!!

最初のニュースを聞いて即、これ以上ないほど気持ちが高まってしまいました。もう一回言います。

大好きなジョン・ウー

大好きな金城武

大好きな長澤まさみ

はーーーーん!!!

 

それがまさかこんなに待たされるとは。

2018 年 には次のようなうわごとをハイクに書いていました。

フィギュア、男子シングルは「○○選手、FS に進めず(注:引用元では選手名を書いていますが、わかりにくいため固有名を伏せます)」までしかチェックしておらず、録画を見るのもすこし先になりそう。この事態を映画に喩えると、「金城武が主演したジョン・ウーの新作が中国でコケて、日本公開ならず(注:雨子の雑な認識。事実にあらず)」のようなことです。おもしろいかおもしろくないかは自分で判断するから、公開してください、お願いします!! という気持ちです。              

                「はてなハイク」2018/2/17 22:38:47 

この喩え含みのうわごと、自分で読んでもよくわからなかったので、解説します。

時期的に見て、平昌オリンピックの話のようです。このとき、SP(ショート・プログラム)で 24 位以内に入らないと FS(フリー・スケーティング)には出場できなかったのですが、SP は要素が少ないので、素点の大きいジャンプでミスが重なるとスター選手でも FS に進めないというケースがあって、このときまさにそういうことが起こって、「いいじゃないか、FS を見せてよ、SP と FS セットでフィギュアのプログラムじゃないか〜けち〜オリンピックのくせに〜〜点数は勝手につければいいじゃない、私はただ見たいのよ〜〜〜」という気持ちだったのです。

それが、『太平輪』が待てど暮らせど公開されないことに対する不満と焦り、飢えなどと重なって、上記のような叫びにつながったようです。

待ちました。

正確に言うと、待ち疲れて絶望しかかっていました。

でも、ついに今年、2019 年になって、突然の大公開!

金城武長澤まさみそしてチャン・ツィイーという豪華メンバーにもかかわらず日本公開されていなかった「The Crossing(原題)」2部作が今年 6 月 7 日、やっとこさ日本公開だって。長かった〜。よかった〜。ジョン! ウー!

https://eiga.com/news/20190313/1/    

                「はてなハイク」2019/3/13 10:07:39

よかった。

ほんとよかった。

と喜びつつ、この時点では「ま、でもあんまり期待しちゃいけないんだろうな、こんなに日本公開に苦労するくらいなのだもの」と予防線を張ることに余念なく、予告もあまりじっとは見ず、目の端でさら〜っと押さえる程度で臨みました。

www.youtube.com

〜記憶で書くあらすじ〜

十五年戦争下の中国では中国国民党中国共産党の対立が続いており、戦争が終わると今度は内戦が本格化してしまった。続く戦火のなか、故郷を焼かれ家族を失った于真 ユイ・チェン(チャン・ツィイー)は出征したまま行方知れずとなった恋人を追いかけ従軍看護師に志願し、中国を南下する。一方、国民党の英雄、雷義方 レイ・イーファン(ホアン・シャオミン)は周蘊芬 チョウ・ユンフェ(ソン・ヘギョ)と恋に落ち結婚するが、激しさを増す内戦に身動きが取れなくなる。そして、台湾で日本軍に徴用されていた医師、厳沢坤 イェン・ザークン(金城武)が故郷にもどると、長兄を失った家は冷え冷えとしたもので、恋人、志村雅子(長澤まさみ)からの手紙はすべて母に燃やされ、なかったことにされていた。

この映画はそんなわけで、そもそも義和団事件辺りから始まって、あんなこともあってこんなこともあってみんなへとへとになって日中戦争が終わって、なのにそこで全然終わりじゃなくて第二次国共内戦が始まってしまって、それがほんと大変で、一貫して敵味方なくただただひたすらいたましく、そんな戦いがいちおう収束を見せるまでの約 50 年くらいの間の話です。時間軸で言うと、メインとなるお話はその終わりの方、ほんの数年間の三組の恋人たちとその周辺の人々をめぐるのですが、みんな背負ってるものがずしっと重い。この「昨日今日の話じゃない」感じというか、おばあちゃんが命からがら逃げて、お母さんも命からがら逃げて、そして私もどえらい目に遭って、っていう、そういう経緯と時間の流れがある中で、大きな運命の渦にぶわーっと人々が巻き込まれて、あ〜〜〜〜となっているうちにあっという間に五時間経ってました。

五時間経っての感想としてはまず、ジョン・ウーなのに、わけがわかる……!

それでもやっぱりジョン・ウー。風と鳩(と鴎)の演技、突然のスローモーション、ハードボイルドな優しさに溢れていました。

映画の真ん中を走るのはチャン・ツィイー演じる于真 ユイ・チェン。于真の言葉がとてもシンプルで、複雑ないきさつを抱えたこの映画に輝きを与えていました。死なないで、生き抜くのよ、信じるときはただ信じるの、と、ほぼおまじないの域に達しているその言葉の素朴さが良かったし、映画全体に力を与えていました。

その于真を支える女友達。于真に仕事を案内し、暴動に巻き込まれたときは支えて逃がしてやり、彼女の話を信じ、最後にはぶっといマフラーをかけてやる。あの赤い、重いマフラーを思い出しただけで今、涙が鼻先をついてきました。

この映画ではそんな風に女性同士の穏やかな関係がそこここで描かれてるのが魅力です。于真は生きるために、また台湾への渡航費用を稼ぐために体を売るのですが、それが近隣の人に知れ渡り、下宿を追い出されてしまいます。彼女が追い出されたとき、交渉の窓口に立ったのは下宿のおかみさんです。決然と、「もうあなたをここへ住まわせるわけにはいかなくなったの」と伝えました。その下宿のおかみさんと于真が思わぬところで再開します。きまずい経緯があったにもかかわらず、まるで懐かしい友人や親戚のように、二人は互いが生きているということを喜び合い、苦境を支え合ったのです。

于真はただひたすら生き抜いていこうとし、それは同様に生き抜こうとする人々を結びつけます。

こうした人物たちとまったく違った理屈で生きているのが、金城武演じる厳沢坤 イェン・ザークンの母です。

日本軍に徴用されていた沢坤が生き延びて帰ってきたときの母の冷えた態度は、とても悲しかった。母は長男が逮捕されそして死んでしまうという一家の苦境の最中に、次男である沢坤が不在だったことを責めます。

でもそもそも沢坤は兄の代わりに出征し、命からがら帰ってきたわけで、なのに「親がつらいときに親のそばにいなかった」ということを責められるという理不尽。

あまり事細かに書くと気が重くなるのでばっさりカットしますが、沢坤がこの理不尽を無言で受けとめている横で「沢坤は(兄の)代わりに出征してくれたのですよ。お母様」ときっちり諭す兄嫁。「ね?」と念を押し、母がしぶしぶうなずくところまできっちり見つめる兄嫁。

ああ。

ひとつひとつ書いていくといつまでたってもこの感想文は終わらない。なにせ、なにせ、前後編で五時間あるのだから。

そんなわけで一足飛びに書きますが、とにかく物静かな兄嫁が姑を支えながらこの家を守ってきた数年がふんわりと沢坤のまわりを覆っていました。二人は別に恋情ですとか、一言で言えるような何事かを抱えるわけではないものの、姉と弟として、頑迷で傷ついて疲れ切っている母を両側から支える同士として、そしてどうなるかさっぱり予測できないこの世界を生き抜いていく仲間としてほとんど無言でやりとりを重ねます。

母が燃やした手紙。

それを炎の中から救い出し、保管しておいてくれた彼女。沢坤の気持ちがどこにあるかわからないうちはそれをただ保管しておき、沢坤の胸の内に今も雅子がいるとわかるや、そっと渡してくれた彼女。沢坤と雅子をつなぐ役目を果たした周蘊芬 チョウ・ユンフェの家でなぜか鶴を折る彼女。蘊芬が家を失うと「うちにきてください」と即断する彼女。

沢坤が弟を迎えに上海に旅立つとき、その指が彼女の髪の毛に触れました。

それが一体何なのか、それは、やはりこの映画を見てとしか言いようがありません。

おもしろかったです!

 

心に残るポイントを全部書いていたらきりがないので、なにひとつまとまっていませんがおわります。

今後、友人たちに会う度に「The Crossing」の話をしてしまうことでしょう。やはりジョン・ウーの「マンハント」がそうであるように。ジョン・ウーに支えられる人生です。

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第一回「The Crossing」鑑賞後お茶会風景

いったん、おしまい。