ざべすよ!
丹後ミステリーツアー、三日目は天橋立で朝を迎えました。
ざべすたち、いつも朝は果物とヨーグルトと紅茶だけなので、旅館で朝ごはんをたべると感激します! どれもとってもおいしかったの。
天橋立駅を旅立つときは寂しくて悲しくなりました。
なのに雨子が手にした文庫本をこっちに見せながら、「あああ〜ポアロが〜〜ポアロが演説を始めてしまったよ〜〜解決編に突入してしまった、さっさと読まなければならない!」とか言うのです。
旅情というものについて、どうお考えなのでしょうか。まず、ざべすの目からこぼれる涙をぬぐってからそういうことは言って欲しいのです。
涙をぬぐって宮津にやって参りました! わずか 5 分の距離です。
雨子はポアロの演説を読み切れず、ちょっと困っているようです。犯人に予測はついているのかと尋ねると、「ついてはいるけどそいつだけ鉄壁のアリバイがある」とのことです。
まあたいへん。でも、てっぺきのアリバイがあるってことはもはや犯人ってことよね。
駅前にはとんだ屋という、食堂とお宿がいっしょになったお店がありました。カレーがおいしそうでした。
てくてく歩いて行くと、市役所に出ました。どどんとした立派な建物です。せまってきます。
ここからもうちょっと行ったところにお目当てがありました。カトリック宮津教会です!
ルイ・ルラーブ神父さん設計、太井正司さん施工、1896 年からここにある教会だそうです。地震も戦争もありましたがずっとこうしてここにかまえていて、きれいです。残念ながら今は中が改修中で、立ち入り禁止になっていました。工事がすめば、またいつでもだれでも訪ねてよいそうです。
裏手の公園には細川ガラシャさんがいらっしゃいましたわ。
そして、もうひとつのお目当て、旧三上家住宅に参りました。駅の観光協会で「教会と三上家住宅以外におすすめの場所はありますか?」と尋ねたら「ありません」と答えられたので、ざべすたちはここでゆっくりすることにしました。
廻船業や酒造業などを手広く展開していた豪商の人のおうちで、都度都度建て増ししたらしく、とてもおもしろいおうちでした。ななめの空間もありました。
ざべすが気に入ったのは検査室です。お酒をつくっていたので、ここでいろいろと検査したのだそうです。そして、お酒といえば酒税、酒税といえば税務署の人で、税務署の人はここで休んだり仕事したりしていたそうです。ふうん。
このおうちは特別でしたが、ほかにも古い建物や、きれいな路地、おいしそうな洋食屋さんなどがあり、すてきな街だと思いました。
むかし、花街だったところも通りました。隣の建物と渡り廊下のようなものでつながっているおうちが多かったです。
ほそい路地に古い喫茶店があって、こんなお店が近所にあったらなって思いました。
電車の時間までちょっとだけ、駅前の喫茶店で休むことにしました。
ここがとってもおもしろいお店で、なんと宿泊もできるそうです。でも、サングラスでの入店は禁止で、お店に入ったら外してほしいそうです。どうしてそういうきまりができたか、謎です。お店の人に聞いてみればよかったです。
アイリッシュコーヒーはブランデーが効いていて、にがくてあまくておいしかったです。
ばいばい、宮津。
ばいばい、丹後。
やっぱり涙が出そうです。
でもこのとき雨子がそそくさと本を開いて、「えー! そんなん、あり〜?」と言ったので、涙ひっこみました。殺害方法の絵面があまりにも、間抜けなものだったそうです。
「これは、映像化不可能だわ。あほらしくて」というので、じゃ、つまんなかったの? と尋ねたら、「おもしろかった!」と言って次の箇所を朗読してくれました。
ポアロはじっと彼を見つめた。「事件の核心はミセス・ライドナーにあります。ですから、彼女のことが知りたいのです」
エモットはゆっくりと聞きかえした。「彼女のことを知るというのは、どういうことですか?」
「わたしが知りたいのは、彼女がどこで生まれたとか、旧姓がなんだったかというようなことではありません。顔の形とか眼の色などでもありません。つまりーー彼女がどんな人間だったかです」
「それが事件と重要な関わりがあると考えているんですね?」
「ええ、そう確信しています」
エモットはしばらく考えてから、ぽつりといった。「あなたの考えは正しいかもしれない」
「だから、あなたの力をお借りしたいのです。彼女がどんな女性だったか、教えていただきたいのです」
「そんなことができるでしょうか? ぼく自身、今までずっと考えてきたことですが」
「あなたなりの結論にたどりついたのでしょう?」
「ええ、そのつもりです」*1
「この、エモットって人がおもしろいのよ。この人はある人物に軽んじられていて、利用されそうにすらなるんだけど、これがそうは問屋が」と雨子が興奮気味に言っているうちに京都駅に着いてしまい、旅情が台無しです。
でも京都からは新幹線にのって、優雅にお酒を飲んだりお弁当を食べたりして旅をしめくくりました。アイスも食べたのよ!
松本清張さんが『D の複合』を執筆した旅館の人に、雨夫が「あの本で死体が埋められていたのって、どのあたりですか?」って質問したり、雨子が結局いつも通り人がころされる本を読んでいたり、それはどうかしらって思うようなこともありましたが、丹後はすてきなところでした。波の音のそばで暮らしていたら、かがりさんのようにきれいな女の人になれるかしら、と思うのです。
- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,石田善彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
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*1:石田善彦訳 アガサ・クリスティー『メソポタミヤの殺人』早川書房 p.296