プール雨

幽霊について

門をくぐる

建長寺に行きました。 当日は鎌倉学園で入試があったようで、見送りをすませた塾関係者、保護者の方々とすれ違いつつ向かいました。

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ばばーん

臨済宗のお寺ですね。

前日が節分だったので、何か催し物があったようです。早朝から大勢の人が出て設営をばらしていました。

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なんかすごい木
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うねっています

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りっぱ

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背景が山です

母の手術が成功したことにより、この辺りからお参りも大分雑になってきました。雑になるというのはどういうことかというと、謙虚さを失うということで、つい、具体的に、ことこまかにお願いしてしまったということです。「ついでに弟もよろしく」というような。

ここから駅の方にもどりつつ、同じく臨済宗円覚寺に行きました。

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ばばーん

山門をくぐりながら雨夫さんが言いました。

「(漱石の『門』で)あいつが逃げて、引きこもったのってどの寺だっけ?」

私は答えました。

「どこだっけ……」

夏目漱石『門』の主人公、宗助がこれからやってくるかもしれない破綻や不吉な来訪者の予感にさいなまれて、思いあまって禅寺にこもって修行のようなことをします。

北鎌倉で山門をくぐるとどうしてもそのことを思い出してしまいます。

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道場〜

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書院〜

そして、このような風景を見るとさらに「宗助よ……」と思い出してしまうのです。

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いろいろ建ってる

 山の裾を切り開いて、一二丁奥へ上るように建てた寺だと見えて、後の方は樹の色で高く塞がっていた。路の左右も山続か丘続の地勢に制せられて、決して平ではない様であった。その小高い所々に、下から石段を畳んで、寺らしい門を高く構えたのが二三軒目に着いた。平地に垣を繞らして、点在しているのは、幾多(いくら)もあった。近寄って見ると、何れも門瓦の下に、院号やら庵号やらが額にして懸けてあった。

 

『門』十八

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ひとつの街のようです

さっきの建長寺もここも、開山が一三世紀で、まず、その立派さに驚いてしまいます。仏殿の前ではお参りする前に「ひゃー」と思いました。手を合わせながら思わず「なんと、立派なところですね」と言ってしまい、「お参り的にはアウト」な感じがしました。

下の木蓮魯迅の寄贈だそうです。1930 年代のことなので、開山に比べれば最近も最近の話とはいえ、1920〜30 年代の、東京や神奈川辺りを留学生達が闊歩していた時代の痕跡がこうして現に見られるのはうれしいことです。

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これから咲きます

それで結局宗助はどこの禅寺にこもっていたのかなと『門』を読み直してみたところ、お寺の名前は出てきませんでした。「鎌倉辺」の「禅寺」に十日ほどこもってくると宗助は言っていて、妻のお米は「善良な夫」が何かに苦しんでいることはわかっていたので、その「果断を喜んだ」とあります。

宗助はある過去の出来事が今まさに自分を追いかけてきている、そう思わずにいられない事態を恐れているのですが、それをお米には言えないでいます。他の夫婦と比べても仲がよく、何でも話し合って暮らしている二人なのに、宗助の頭を悩ませているその問題を、彼はどうしても妻に言うことができず、なんと東京から逃げ出すのです。

それがなにかと言うと……ぜひそこはお読みいただきたいです。久しぶりに読んだらおもしろくておもしろくて止まりませんでした。

それで思い出したのが、『ラブ・アクチュアリー』『アバウト・タイム』『イエスタデイ』などのリチャード・カーティス脚本によるいくつかの映画のことです。

これらの映画では「非常に親密な二人組の片方が、ひょんなことから相手にはどうしても打ち明けられない秘密を抱える」ということが繰り返し描かれています。仲の良い、気の合うカップルなんだけど、片方がタイムリープを繰り返しているとか、片方だけビートルズのある世界に生きていたとか。つまり、二人でいろなんなものを分け合って、与え合って生きていくんだけれども、共有できないものがどうしてもあって、それが記憶なのです。

宗助の問題はもうふたひねりくらいあるというか、宗助にはどうにもしようのないことなので、一緒くたに語っていいかためらわれるところですが、「大切な相手に、どうしても言えないことがある」ということをめぐるドラマがいつもいつも私たちの気持ちをざらつかせたり、跳ね上げたりしてきたというのがおもしろいなと思います。

門 (国立図書館コレクション)

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