プール雨

幽霊について

2020 年 1 〜 2 月の読書記録

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梅の花がきれいな季節です

この二カ月、読んでいた本をメモしました。

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二カ月間の読書生活

ジャンル、テーマなど、あまりに脈絡がなかったので『電気グルーヴのメロン牧場 花嫁は死神』(6)を中心にしてそこからの距離で並べました。自分で書いたくせに『あまからカルテット』『メロン牧場』『話し言葉の日本史』のラインが意味するものはなんだろう、これが私の限界だろうかと考えこんだりして、この無為な営みにより小一時間消失。しゅぼっと消えた。

 

1. なぜ 『電気グルーヴのメロン牧場 花嫁は死神』を中心においたか

まったく心が揺れなかったからです。この二カ月、私の心の真ん中に『メロン牧場』があったと思うと、いろいろと腑に落ちます。

「ん?」とか「えー!」とか「ぁぁぁぁぁ」とか、そういった揺れがなく最後までフラットな気持ちで読み進められました。

このシリーズ、久々に読んだら、卓球の勤勉さ、率直さ、それゆえの速度と情報量が脳に染み渡りました。上から見たり外から見たりしないということ、当事者意識をもつということなどについて、感銘を受けました。

 

2. アガサ・クリスティーポアロものを読んでいると

おととしくらいから、ポアロシリーズを最初から順番に読んでいて、とにかく毎回毎回型破りなのに驚きます。型にはまらないよう努めるところに、倫理的だとすら感じます。

『もの言えぬ証人』は依頼人死亡のため、依頼内容がわからないままポアロが捜査に乗り出すというのがとてもおもしろいです。事件があったかどうかもわからないまま捜査するなか、ヘイスティングズと犬が心を通わせるというよくわからないくだりなども挟まり、楽しい。とはいえ、1930 年代なので、世界があらゆる差別に覆われていて、「科学」がその道具になっています。遺伝とか。『もの言えぬ証人』のミステリの中核は、読者の人種差別です。性差別もある。後出しもあります。でも途中まですごくおもしろい。

神林恒道『近代日本「美学」の誕生』はそのクリスティーの時代のすこし前、19 世紀末から 20 世紀初頭、日本の美術界で起きたことを書いています。フェノロサ経由のシェリングヘーゲルと、森鴎外経由のハルトマン。鴎外がジャーナリズムの世界でアカデミズムに勝ったように見えたことが、日本の美学のハルトマン傾倒へのきっかけになったことなど。

 

3. 東山彰良西村賢太の新作

東山彰良『小さな場所』は台湾の小さな街の小さな路地で暮らす少年を主人公にした連作短編集です。幼い語り手ゆえの見えなさと、幼いながらに刻一刻壁を乗り越えようとしている彼ならではのリアリティーとでぐいぐい読めます。タイトルは「小さな場所」ですが、実際はいずれそこを出て行く語り手が最初の一歩を踏み出す話です。

西村賢太『瓦礫の死角』は、出て行かされた主人公がまた更に出て行く話に始まって、今までよりヒリヒリした感じがします。彼にしかできない叙述トリックもあって、これまでとはちょっと違う味わいです。

 

4. あなたのフェミニズムはどこから

上野千鶴子田房永子『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』も、石井優実『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』も、一人の人間の愚痴からスタートして、その苦しみが言語化されることで他の苦しみとつながり、思想になり、運動になり、構造化、歴史化されていく様を描いています。個人的な苦しみや痛みが個人の問題ではなく、公共の、社会の、政治の問題であったことが明らかになるというか。

『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』で繰り返し語られるのが、「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重される思想」ということです。大事なのは、弱さを隠さないこと、自分の弱さと和解することで、これは男性にとっても生き抜く上で必要な構え、思想ではないかなと思います。

それで、私のフェミニズムはどこからかなあ、と考えてみるとそれはやっぱり病弱なくせに粗暴で「男でござい」と虚勢を張る父や弟の影響が大きいかなあと思います。ずっと彼らに「その弱さを受け容れて、自分ができることを実直にやっていけばいいんじゃない」と言いたかった。

 

おわり

 

2020 年 1 〜 2 月の読書記録

神林恒道『近代日本「美学」の誕生』

アガサ・クリスティー『もの言えぬ証人』

東山彰良『小さな場所』

西村賢太『瓦礫の死角』

野村剛史『話し言葉の日本史』

東山彰良『越境 ユエジン』

電気グルーヴ電気グルーヴのメロン牧場 花嫁は死神』(6)

若竹七海『不穏な眠り』

上野千鶴子田房永子『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』

石井優実『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム

柚木麻子『あまからカルテット』

夏目漱石『門』

ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来 国際政治理論で、その日に備える』