BSプレミアムで『ダーティハリー Darty Harry』、『ダーティハリー 2 Magnum Force』、『ダーティハリー 3 The Enforcer』、『ダーティハリー 4 Sudden Impact』、『ダーティハリー 5 The Dead Pool』と順番に見たら、なんと 4 月が終わっていました。
ハリー・キャラハンがどこまでかっこつけていられるかを毎週毎週眺めていました。そしたら、一カ月経っていたのです。テレビに『ダーティハリー 5』の文字が出た瞬間、絶賛テレワーク中の夫が「またこれ見るのおお?」と閉口しきった声を出しましたので、「先週のは『4』で先々週は『3』で、今日は『5』だよ!」と釈明すると、
「同じだよ!」
と泣かれました。
そうです。仕事をしている人の横でハリーさんを見続けた一カ月です。
ハリーさんは最初のはほんとにひたすらかっこよいのですが、その後ジャズがポップじゃなくなったせいもあって、80年代に入ってからなかなかスタイリッシュを貫くのも難しくなり、すこうし、「おもしろ」の方に行ってしまいます。コーヒーに砂糖やまもりにされているのに気づかず飲んでむせたり、赤いジャージがなんとも言えなかったり。女性達の視線も「おじいちゃん、なかなかやるじゃない」的なことに……。でも、中身はいずれにせよハリー・キャラハンでかっこいいままなので、どんどん不思議なことになっていました。
ジャズを貫けばよかったのに。
といっても、刑事さんのお話で、街を駆けるのでそういうわけにもいかないのでしょうね。
ハリー・キャラハンの「かっこいい」成分は、大部分「無口」でできています。まぶしそうな顔、無口、決断が早く、無口なくせに偉い人と悪い奴への皮肉は欠かさない。洒落た皮肉をじっくりと決めてから、撃つ。それがハリーさんというお人です。『4』まではそんなハリーの「よい男らしさ」と犯罪者のみなさんの「悪い男らしさ」の戦いが繰り広げられ、「戦いとはいっても『男らしさ』の問題だから情緒とかはありませんね」という感じでしたが、『5』で突然それがわけわからないことになりまして、むしろシリーズ全体に対する好感度が上がりました。
1988 年。もはやかっこつけるのも一苦労です。
ハリーさんもおつかれさまです。
ハードボイルドは大変です。だって自分で釈明することができないから。釈明している暇があったらさっさと動いて犯人を逮捕しなくちゃいけません。たまに、まわりから言い訳せよと求められることもありますが、しないよ、だってハードボイルドだから!
最近私は思うのです。年をとるとハードボイルド成分が大事です。
かっこつけないと、口から詩のひとつも出てこないのです。詩は抵抗のあかし。洒落た皮肉のひとつも言えないまま 60 代、70 代を迎えるのはあまりにハードだしみっともないと『論語』にも書いてあります。
がんばりましょう。
ハリーさんがいなくなり、クリント・イーストウッドはとぼけた運び屋をやっています。ああ、もうハードボイルド界はチョウ・ユンファの頼りない肩にぐいぐいと重荷をおしつけてしまうの? それともイ・ジョンジェががんばるの? ハ・ジョンウにハードボイルドは無理よ……と考え込んでいたら、なんだ、本邦に現役ばりばりハードボイルドがあるではありませんか。葉村晶がいるではありませんか。
葉村晶シリーズ、やっと再読が終了しまして、感無量です。「読まなきゃいけない本がいっぱいあるのに……」と頭のすみでためらいが生じる瞬間がありましたが、乗りかかった舟には最後まで乗り切らないとさっぱりしませんもの。
葉村晶も 40 代後半です。第一作では「このひと、私より 4 歳くらい上かな」という年まわりでしたが、最新作で私が追いついたようです。追い越したくない。葉村晶にはいつまでも「すこし年上の、憧れの人」でいてほしい。
彼女はいつも目が外を向いていて、夢中だし集中しているので、自分のことに関してはほとんど釈明せず、観察すらしません。だから自身の疲労や悲憤、怒り、悲しみなどに気づくのが遅い。
「ねえ。その自販機わたしも使いたいのよね。ぶっ壊すのはわたしが買い終わってからにしてもらえない?」
言ってしまってから、自分が思っていた以上にダメージを受けているのに気がついた。
『錆びた滑車』p.27
考えこんでいると、ヒロトが急に笑い声をたてた。
「食いつきそうな顔しないでよ、葉村さん。そんな警官どうでもいいんだ。」
同 p.56
バイトをしている古本屋の二階に住み込んでいる探偵。探偵の仕事はあったりなかったり。たまに持ち込まれる厄介事は自分では淡々と丁寧にこなしているつもり。でも、なじみの刑事に「首をつっこまないでくださいよ、お願いしますよ」としつこく釘をさされるくらい、周囲の人間には、諦めが悪く、最後までやりぬく人間だと思われている。
憧れの、葉村晶さんです。
昨年末、最新作が出たばかりなので、次回作はまたちょっと間隔があくのかなあ。楽しみに待っています。
4 月に見た映画、読んだ本 (摂取した順)
- 『刑事コロンボ 殺人処方箋』
- 若竹七海『暗い越流』
- 『ダーティハリー Darty Harry』
- 『名探偵ポワロ コックを捜せ』
- 『Eight Days A Week』
- 若竹七海『さよならの手口』
- 『マッスルモンク』
- 『ザ・ウォーク』
- 『刑事コロンボ 死者の身代金』
- 『ダーティハリー 2 Magnum Force』
- 『トレイン・ミッション』
- 若竹七海『静かな炎天』
- 『サイン』
- 『名探偵ポアロ ミューズ街の殺人』
- 子どもと学ぶ歴史教科書の会『増補 学び舎中学歴史教科書 ともに学ぶ人間の歴史』
- 『ダーティハリー 3 The Enforcer』
- 『刑事コロンボ 構想の死角』
- 若竹七海『錆びた滑車』
- 『ブリッジ・オブ・スパイ』
- 『刑事コロンボ 指輪の爪あと』
- 『ダーティハリー 4 Sudden Impact』
- 『映画秘宝』復活号
- 『ハミングバード』
- アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』
- 『ダーティハリー 5 The Dead Pool』
- 若竹七海『不穏な眠り』
そうだそうだ、これ、大人の人が読んでもおもしろいし「勉強しよう」って気が起きます。おすすめです!
4 月はこれにておしまい。