プール雨

幽霊について

グッドソンさんの声

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天気、よすぎて

 「危険な暑さ」という予報が出ましたので、じゃあ、映画館で涼もうと『パブリック 図書館の奇跡』を見てきました。

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シンシナティの冬は厳しく、行き場を失ったホームレスが昼間、公共図書館で寒さをしのいでいた。グッドソン(エミリオ・エステベス)はその公共図書館の職員。常連のホームレスたちとは顔なじみで、名前を呼び合い、雑談もする。ある日、グッドソンが出勤すると、図書館の前に人だかりができていた。大寒波が襲った前夜、図書館の前で凍死してしまった人がいたのだ。グッドソンの知った顔だった。ホームレスには市がシェルターを用意していたが、とても数が足りず、凍死のニュースに人びとは胸を痛めてはいた。シェルターを増やすしかない。誰でもわかることだが、事態は動いていなかった。そんななかで、グッドソンが図書館の閉館作業をしていると、常連のジャクソンが近づいてきて「今夜は帰らない。ここに泊めてくれ」と頼んできた。「泊めてくれ」とは言うものの、グッドソンには彼らを追い返す術も、泊めてやる権限もないのだった。

  このグッドソンさんという人が、基本的に一種類しか声の出ない人なんです。一種類の声に「じゃっかんやわらかめ」「じゃっかんしっかりめ」のグラデーションがあるだけで、基本的に、プライベートもパブリックも同じひとつの声で生きている人です。

 大体、人間て声に「プライベートモード」「仕事モード」があって、さらに「漠然と公共モード」「公共モードのやわらかめ」「公共モードのかため」「公共モードの大勢に向かって語りかけるバージョン」……と、いろんな声を出して日々やりくりしていると思います。

 ちなみに私はもはや一種類しか出ません。会社勤め時代は「会社モード・社内用」「会社モード・営業用」「会社モード・大勢に向かって語りかける用」と「プライベートモード」を使い分けていましたが、家に引きこもるようになって何年か経ったころ、「対社会用」の声が出なくなっていることに気づきました。そのため、というのか「なのにむしろ」というのかわかりませんが、とにかく、昼間家にかかってくる不規則営業電話に対する態度が「ふわい、もしもし……いまいません……きほんてきにずっといません、ふわい、ふぁい、はあ」という感じでさらりとお断りできております。

 私の話はいいんですけど、グッドソンさんは一所懸命です。ずっと気を張っています。職場では信頼もされています。でも、その場を支配するような声質で圧倒的なパワーをもった言葉などを発することができないので、トラブルに弱いのです。なぜか全裸で歌っている男性がいてみんなが困っているときにも、同僚が「すみません、お客様、洋服を着てくださいますか?」と言ううしろで困り顔。効果がないとなると、別の職員に目顔で「プリーズ」。彼が目で「無理」と応じている間になぜか全裸の男性は昏倒。救急車を呼びました……。

 そんなわけなので、「今夜泊めて」とホームレスのみなさんが大挙してフロアの隅に集まったときも、「これはたいへんなことになったのだ……」と困り顔。彼ら彼女らバリケード封鎖をして警備の人を追い返してしまい*1、警備側でマニュアルに沿って市警を呼んだときにも「ええ、これはこまったことになったのだ……」と困り顔。いちおう図書館の人だから、なんとなくグッドソンさんがこのデモの「顔」みたいなことになってしまったのですが、ほんとに単に「顔」で、彼にはメッセージを発したり、状況を速やかに伝えて事態を打開したりはできないのでした。

 基本的に話は「オフィシャル」と「パブリック」の狭間におっこちてしまったグッドソンさんと仲間たちが、別に悪いことをしていないのに、何か大問題かのように遇されて困惑しているうちにあれよあれよと雪だるま式にまずい方向へと行ってしまいます。「パブリック」の問題に「オフィシャル」が首を突っ込むことで暴力の問題が発生し、そこに選挙のことで頭がいっぱいな検察のえらい人と、今日のニュースで手柄上げるわよ! とやっきになっているキャスターが人の話を聞かず勝手な話を作り上げるのでてんやわんや。このなかでグッドソンさんが、ほんとうのことしか口にできないその声でどうやって一夜をごまかしなく生きぬか、というのがポイントです。

 おもしろかった!

 とくに彼が「パブリックに向けた声」を無理矢理絞り出した瞬間とその方法、そして、市警の突入に際して、つまり、「オフィシャル」の論理ががーーーーーーっと「パブリック」の壁をつきやぶろうとしたとき、そのとき彼がぎりぎり、ひねり出したアイデアで暴力をうやむやにしたこと、そしてその影には、彼の親密な声があったということ。

 ああ、おもしろかった。

 事前にあまり予習していかなかったことを後悔した瞬間もありました。最初の方で、「ああ、私は今、目の前で繰り広げられている会話の意味をさっぱりわかっていない。わかっていないということしかわからないぞ」という瞬間があって、英語わかんなくて今日も損しました。

 でも、わかんないなあと思いつつも、グッドソンさんもマイラもアンジェラもすぐ好きになりました。

 おすすめです。

 この後、『風の谷のナウシカ』も見ました。ナウシカはいろんな声が出せるんです。さすが姫君。命令なんかもぱっとできちゃう。有能です。ナウシカのアクションはきっぱりしていてかっこよかったです。空中で虫笛をキャッチするのなんかほんとかっこよかった。

 映画の後は公園を散歩して、池を見てモヒート飲んで鳥見ました。

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暑すぎ

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モヒートはおいしいが、汗が絶え間なく流れました

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鳥さんたちも暑いかしら

 いろいろ言っても最終的に「暑い」しか言えない季節ですね。しかも今季はマスク着用なので息苦しさ大爆発です。今日はめずらしく大都会に行って熱風にさらされましたので、明日は家でじっとしていたいものです。

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思わず太陽にカメラを向けてしまいました

おしまい

*1:デモ隊に女性はいないのでした。女性が優先的にシェルターに入れるということはありそうに思いますが、よくわかりません。