プール雨

幽霊について

幸福について

 親譲りの無鉄砲でこどものころから損ばかり……

 と、いうわけでもないです。

 「生まれつき損しやすい」こともなければ「生まれつき得」ということもないです。

 しいていえば……しいていうようなことも、特にありません。

 損か得かはわからない。

 そもそも、あまり考えたことがありません。

 損か得かを折に触れて考えるのは、手間がかかりそうなので考えません。莫大なエネルギーをつかいそうだと推察しています。

 かんたんに言うと「損得」で考えるのは好きではない。

 にもかかわらず、どっちが損か得かという話はこの世にごろごろしているのです。

 「真面目な者ばかり損をする」

 「正直者は馬鹿を見る」

 こういうのは大体誰かが別の誰かにひどい目に遭わされたり、いっぱい食わされたとき、あまり関係のない人が言います。

 仕事を押しつけられたあげく、手柄を取り上げられたとか、そういうときですね。

 そういうのを傍から見ていて、「正直者はバカを見るってことかあ」と誰かがつぶやいたとします。私はそれにいつも反論したいと思って生きてきました。でも、なにせそういう考え方を平素よりしていないので、とっさに反論できないわけです。せいぜい、「そういうことじゃないでしょ」とか「そんなことないよ」とかひとりごちる程度。

 今日は風呂もはいったことですし、ごはんも炊けて、あとは家族の帰りを待つだけですので、ゆっくり釈明したいと思います。

 まず状況から整理します。誰かが誰かをだます。そして、だました方がいい目を見る。この場合、このだました方は得をしたと言えるのでしょうか。いいえ。だって、「だます」って相当、悪いでしょう。「うっかり」では済まされない邪悪な一手間がそこにはある。そいつが仮にそこで何か巨万の富を得ていたとしても、そいつの行為によるそいつの人生に対するマイナス、負荷はチャラにならないと思います。そいつがその時点でどれだけうはうはへらへらしていようと、絶賛、絶対的不幸です。それは何枚コインを積み上げようと、そしてそのコインが一枚何億ドルだろうと、絶対にチャラにならない。そいつには二度と、「ああ、ほっとした。ああ、さっぱりした」という夜はやってこないのだから。

 それに比べれば「真面目」とか「正直」って言われている人は、当人が当人を裏切っていない、さっぱりした暮らしをしているというだけで幸福だと思います。今は状況がハードで辛くても、「うしろめたい」とか、「やましい」とか、「いつも金勘定で頭がいっぱい」とか、「過去の自分がやらかしたいじめをふっとしたときに思い出す」とか、そういうことがない上に、人から「真面目」とか「正直」って思われているのだから、それはもう絶対的に幸福です。

 「生きていることに何の意味があるの?」と若い人に尋ねられ、何と、中嶋らもも、寅さんも同じ答え方をしたのを、みなさん、覚えていらっしゃいますか? 彼らは大体以下のように言ったのです。

 今はそりゃ、つらいことばっかりで、ああ、なんで生まれてきちゃったんだろう、こうして生きていて、何の意味があろうって思うだろう。死にたいって思うこともあるだろう。だけど、がまんして生きていると、十年にいっぺんくらい、「生きていてよかったな」って思う夜があるんだよ。「ああ、生きて今夜を迎えられて、よかったなあ」ってことがさ。お前若いから、そんなの想像つかないだろうけど、あるんだよ、人間にはそういうことが。いいから、そんな、くよくよするな。おじさんがジュースおごってやるから。

 と、クレイジーケンバンドも歌ったような気がします。

 そういうことはありますよね。

 そういう、ああ、ほっとした、よかったなってことがたまに、ごくまれにある、そういうのが幸福じゃないでしょうか。そういう、たまにある「ああ、よかったな」ってことに対していつでも構えができている、それがまた幸福というものなのではないかと、考えるのであります。

 ついでだから申し添えますと、「正直者はバカを見る」とか言って何か結論めいたことを言っているつもりの輩は、その言動、不誠実なので慎んでほしい。考えることを途中で止めるのはおそらく脳か、脳っぽい器官に負荷がかかっていると思う。「正直者が正直者であるがゆえに常に損をする」ということがもし、現状事実ならば、それはその仕組みがクソなのであり、社会の重大な欠陥なのであり、人類として大いに恥じなければならない事態なのです。

 解決しろよ、バーカ!!

 考えてみよう。実際正直で、まじめで、そういう人が……いやこの際、そこそこまじめで、嘘がつけない、くらいでいいや。そういう人がもし、不幸になりやすい社会で、現に不幸だとしたら、社会、間違ってるわけで。

 チクショー!!

 かーーーー!!

 

 以上です。

 ごきげんよう🌙