9 月の課題図書
9 月の実際
- カール・マルクス『共産主義宣言』金塚貞文訳
- 市原淳弘『血圧リセット術』
- ガイ・ドイッチャー『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』椋田直子訳
- 落合淳思『漢字の成り立ち 『説文解字』から最先端の研究まで』
- 中島敦『光と風と夢・わが西遊記』
- 中島敦『斗南先生 南東譚』
- 森まゆみ編『伊藤野枝集』
- 円城塔『文字渦』
- 金井マキ『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』
- 藤野可織『私は幽霊を見ない』
- A.ラーマー『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』高橋恭美子訳
- 村田雄二郎・ラマール編『漢字圏の近代 ことばと国家』
- 佐藤忠男『見ることと見られること』
- 香月孝史・上岡磨奈・中村香住編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティー/〈推し〉』
- アガサ・クリスティー『死者のあやまち』田村隆一訳
先月は『文字渦』を読むための迷走と、読んだ後の迷走で読書的に迷子になり、課題図書はそこから一歩も進みませんでした。
でも、『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』と『私は幽霊を見ない』はなかなかの名著でした。おすすめです!
毛糸屋さん、古書店店主、石工、釣り番組のディレクター、羊飼い……等々、脈絡なく登場するそれぞれの分野の達人のみなさんへのインタビュー集。たっぷりとした取材から、筆者がエッセンスを抽出し、イラストと、時に散文詩めく楽しいエッセイにまとめています。多様な「わかりにくいすごさ(同書 p.224)」が見開き 2 頁にきれいに収まっていて美しい。ふんわりした見た目ながら、とても豪華です。
「私は幽霊を見ない」で始まるエッセイが 13 編収まっています。13 という数字にもこだわったのでしょうか。こちらも本としてきれいだと思います。幽霊を見る人の幽霊譚はどうしても「どこからどこまでが事実か読者が判断できない」という問題があります。見える人はそういう意味では孤独ですね。だからなるべく「見える」という人の話は耳を傾けるようにしているのですが、あまりに話のもっていき方が強引だと「いや、私見えないし、信じないんで」と乱暴に遮断してしまいます。占いの話なんかも、あまり好きじゃないです。特に悪いことばかり予言するヘタな占い師のことは生理的に嫌悪しています。聞かざるをえないのは「どうなんだろうな……」と考え込んでいる人の話。「あれは何だったんだろうな」と戸惑いつつ考えているような話は魅力があります。ああでもない、こうでもない、と繰り返し思い出しながら、うまく思い出せてふっと何か理解の通路が開いたり、開かなかったり。そんな「怪談未満」がたくさん語られる、たっぷりしたエッセイ集で、これまた豪華でした。
文字に巻き込まれる人々の冒険小説!
文字の側に主体性のようなものがあることを想定しながらも、思考と文字との主導権の取り合いに終始しないところが魅力でした。文字の外にも、そしてことばの外にも世界があることが前提となっている知的かつ健全な世界です。すっごく楽しかった。疲労が取れました。
というわけで、10 月の課題図書は先月と代わり映えのしないこちらです。
読書が苦行になっちゃいけないので、楽しさが持続するように、自分のテンポで今月も読んでいきたいです。
📚 おしまい 📚