プール雨

幽霊について

午後のロードショーで『ローグ』を見ました

 聞いて、学生さん。

 あなたがチェックメイトの勢いで知ったふうなことを言ったときに、「おっ、若いのにわかってるねえ!」と目を輝かせる大人がいたとして、そのおじさんまたはおじいさんあるいはおばさんに気に入られすぎてはいけないよ。あれよあれよと矢面に立たされる逃げ場を失ってしまうのが落ちですから。

 『ローグ』という映画をご存じ?

 テロリストに誘拐された市長知事の娘、アシラ*1とそのお友達を救出に向かったチームが、テロリストだけでなく、人食いライオンに襲われるお話よ。

 どうして人食いライオンがその局面でからむのかって?

 それは悪い金持ちがいたせいなの。全部、悪い金持ちが悪い。

 アシラといっしょに誘拐されちゃったテッサが奪還チームを前にして演説しました。

 「どうしてサムがリーダーなの? みんなだってサムをリーダーとして認めてないじゃない!」

 それ、今言ってどうすんのかな、「そうだそうだー」って話になったらどうすんのかな、まだ作戦続行中だってのにってことをまあ、「私はこれで勝つ!」って勢いで言うのです。だが聞いている側はみんな大人でプロなので、盛り下がる。チームのみんなは言いたいことあるようなないような、「うーん、まあ、言ってもわかんねえだろうし、説明しづらいしな」という表情で沈黙。テッサもまた沈黙するようにやんわりと指導された。それで、この映画では子どもたちは子どもとして、つまり「守られるべき者」として存在しているんだなということがわかって、よくあるやりとりとはいえ、見ていて安心できるシーンでした。

 この、市長知事の娘とその友だちが奪還チームにより救助されたものの、移動手段も武器もほとんど失ってしまいへとへとになって、村人のいなくなった土地に迷い込み、何とか体勢を立て直そうとする辺りまでが、ちょっとおもしろかったです。

 冒頭は何のことわりもなく始まる檻に閉じ込められたライオンとその施設での惨劇シーン。そこでタイトルが入るので、このままライオンによる復讐劇になるのかと思いきや、次に檻に入っているのはライオンじゃなくて、学校の制服を着ている人間の子ども。あれあれ? と見ているうちに、彼女たちの救出作戦が展開する。「テロリスト」という言葉が出るのはもう少し後で、見ている方にしてみるとどっちの陣営が主人公なのかも確信がもてないまま(どっちも悪く見える)、ひとまず子ども達をつれて逃げ切ったかというところで移動、交信手段を失った救出チームは廃墟に迷い込む。それは冒頭の、惨劇が起きた施設だった。

 ここまでのところが繊細かつ派手でおもしろかったです。「生き残る」という言葉が出てきて、それが効いていました。とにかく生き残ることに集中しよう、という構えが全体の緊張感に繫がっていて、それによって派手なアクションシーンにも必然性が生じていました。

 舞台は苛政により人がいなくなった村にある廃墟で、ライオンは何のためにそこで飼育されていたかというと、アジアの金持ちに売るんですって。間抜け面の金持ちに売るためにライオンを密猟して繁殖すらしていだんだ、ひでえよな……って台詞が入り、このテーマ、どうするのかなあと思ってみていると、登場人物にアジア系の人物がいて、彼が終盤なぜかざっくり「アジア」を代表して悔い改めて謝罪して、一応その話はケリがついた、的な雑で非道な展開になり……

 と、かように

  • 権力と資本の介入による土地と文化の荒廃
  • 迷信による動物に対する虐待
  • アジア蔑視

といった、わりかし構えの大きな問題がぎゅうぎゅうに投げ込まれたうえに、テロリストに四方を取り囲まれ、同時に人食いライオンにひとり、またひとりと餌食にされ、そんな中でテッサ、サムに対する敬愛を育てて人間的にちょっと成長するというあっちで事件、こっちで事件、その間にも主題は示さねばならず、だがしかしどれが主題なの? と、映画はたいへんに楫取が難しい嵐に放り込まれ、決壊していきました。

 冒頭はわりと繊細かつ大胆な作りだったのに、後半粗雑かつ意味不明な展開が続き、「これは前から順番に撮ったのかな」と思いました。特に××と××が急に×××××××と言い出したくだりはまっこと意味不明だった。

 最終的に「母性……」みたいな話にもなり。

 裏番組が『フットルース』だったので、やっぱり『フットルース』見たかったナという思いもよぎりました。

 まあでも、地上波初だし、冒頭はおもしろいし、ところどころ「がんばれ! あとすこしだがんばれ!」と応援したくなりもしたし、主人公のサムと人質だったテッサはよかったです。テッサとアシラ、高校生なんですけど、性的に暴力をふるわれることもなく、またその形跡もなく、ちゃんとチームの誰からも「守ってやらなければならない子どもたち」として扱われていてよかった。銃弾が飛び交うなかを走らされるけど。

 テッサが生意気なことを言ったとき、もし、おじさんたちが「よくわかったな。俺たちの言いたいことを言ってくれてありがとう」なんてきゃっきゃと言っていたら 5 分で全滅してた。あぶないところだった。

 

🎦 おわり 🎥

*1:2022 年 10 月 27 日、「市長の娘」に固有名がないと読みにくいので挿入しましたが、本編で彼女の名前が出てきたシーンを覚えていません。ネットで調べました。また「市長」は記憶違いで吹き替えは「知事」だったので直しました。