雨降り

幽霊について

天使の眼、野獣の街→監視者たち・セルラー→コネクテッド


 
「監視者たち COLD EYES」、ロングランと言って良いのでは?
天使の眼、野獣の街」(原題:跟蹤、英題:Eye in the Sky)のリメイクなのですが、私はどっちも大好きです。香港版の「天使の眼、野獣の街」は、新任の捜査官が最初に出会った事件を通じて一人前になっていく話で、新人がその職場に根付いていく過程をじっくりと、ストイックに映しています。また、英題に象徴的なように、「天は見ている」というテーマがあって、主人公が捜査官としてやっていくにあたってどうしても必要な、法や正義に対する確信を得ていく話でもあります。打ちのめされる彼女にさらに降りつける雨は冷たく、一度は膝が崩れるのですが、その雨が優しく晴れ上がり、ふっと天を仰いだ彼女がよろよろと立ち上がる場面はほんとうに素晴らしいです。
一方、「監視者たち」は英題「COLD EYES」に明らかなように、その目は天や天使のものではないく、あくまでも人間同士のものになっています。だから、ほぼ同じ場面、打ちのめされる主人公、吹きつける雨、膝が崩れる、ついに涙が流れる、しかし、いつしか雨が上がり……というところでも、意味合いがまったく違っていたのがおもしろいです。香港版では修行中の主人公が経験を通じて、ゆるぎないものを発見し、一人前になるので、ラストのショットは職務中らしい彼女が一人で雑踏を行きます。そこには天の目と主人公の一対一の関係があります。韓国版は、様々な目に支えられて、彼女もまた見る者に成長するという話になっています。ラストは主人公である彼女を中心としていますが、監視チーム全体が見渡せるショットになっています。
「監視者たち COLD EYES」は、終盤こそ展開を変えていますが、基本的なところは忠実にカヴァーしており、ほぼ完コピと言えるショットも多くあります。でも、中核となる哲学をまったく違う話に仕上げていて、そここそが興味深いのです。「監視者たち」を見た後、しみじみとすごいと思わされるのが、この、原作にあった最大の旨味、核となる部分をリメイク版では変更したということです。
その映画の一番大事な部分は、そのままに、その映画の中に置いて、自分達のリメイク版では自分達の映画にしかできない新しい核を生み出そうという、実に創造的な主張が見えて、思い出す度にわくわくします。
 

天使の眼、野獣の街 [DVD]

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話は変わって、「セルラー」という、地球上でまだ見てなかったのは私しかいないのでは? と思われるほどの傑作映画があります。つい最近見ました。
 
セルラー [DVD]

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主人公のジェシカはある日誘拐され、監禁されます。部屋についていた電話は犯人グループのイーサンが斧でばっさりと壊しました。ジェシカは一人になると震える手でぐちゃぐちゃに壊された電話の配線をつなぎます。お願い、つながって、誰か助けて! と必死につないだ電話のつながった相手が……

こいつ!

 
もう絶対に助けてもらえない……。
だってこの人、この直前に何をしてたかっていうと、ふられた彼女に言い寄り、すっごい冷たい目で罵られ、さらには罵る彼女を携帯で撮影してはったおされ、にもかかわらずその、撮影した動画を眺めつつ話しかけてるという……そんなところに、ジェシカが震えながら電話してきて……。
 
ああ! 映画を見終わってしばらく経ったっていうのに、いまだにこのときのショックが忘れられない。
だって、さっき、役名で「イーサン」って書きましたが、これ、中の人はジェイソン・ステイサムなんですよ。勝てるわけないです。他の映画だったら開始 15 分以内に殺されてるちゃらちゃら青年と高校の先生と小学生と、奥さんにパックされて「ひりひりする」とか言ってるおまわりさんが束になったって、ジェイソン・ステイサムにかなうとか、絶対にありえない。
それが一体どうなるかはみなさんご存知でしょうが……ところで、この映画は香港で「コネクテッド」というタイトルでリメイクされています。このリメイクもまた良かった。そう、リメイクを先に見て、結末はわかっているのにはらはらしたのです。「セルラー」すごい!
 

コネクテッド スペシャル・エディション [DVD]

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リメイクなので基本的に同じ話なんですが、こっちは電話を受けるのがちゃらちゃら大学生じゃなくて、どうしても色々とうまくできないダメ父さんなのです。確かに電話を受けた時に、「あっ、こんな頼りなさそうな人にかかってしまった……」っていうショックはあります。でもこちらは「良い父親になりたい」「家族に信頼されるような自分になりたい」という渇望がある人物として最初に示されてるので、「セルラー」より、「……がんばれ! がんばれがんがれ!」っていう気持ちにすっとなれる。
これはこれでまた良し。
原作のサスペンス部分の最大の肝、「主人公がどう考えても頼りない、ちゃらちゃら男」「まぬけなほど良い奴」っていう部分を、あっさり変えて、自分達に創れる話を最大限おもしろく、という方向に持っていってるところがすばらしい。
 
この「コネクテッド」と先述した「監視者たち」はリメイクの成功例としてよく覚えておきたい。それも、原作の中核となる部分をなぞるのではなく、そこは手を付けず自分達で新たなテーマを設定して描いたという、そのクリエイティブな構えについて、賞讃し続けたい。