去年の今頃ハイクが店じまいして、かなりしょげていたのですが、実はそこにもうひとつしょげるようなことが起こっていたのです。
近所の喫茶店の閉店です。
近所なので、通っていたときの写真がほとんどありません。だって「当然また来る」ってつもりだから、都度都度写真を撮ったりしなかった。
葛コーヒーという、あったかいコーヒー入りの葛がおいしかったです。カツサンドもおいしかったし、目の前でウィスキーに火を灯してくれるアイリッシュコーヒーもおいしかった。
一人用の席から大勢で囲む用の席まであって、ゆっくりできるいいお店でした。
以下の写真は、もう閉店した後、建物を壊す前に、中の物を何でも売りますって開けてくれたときに撮ったものです。
昔は、屋根に近い、ロフト部分だけが禁煙スペースだったので、よくここに座っていました。ロフトから一階の客席を見るのもおもしろかったです。
この階段、よく降りたはずなのに、レジ前の照明とか、こういう感じだったんだなあとこのとき初めてしげしげ眺めました。照明の傘がかわいいです。
厨房に、テーブルセッティング表みたいなのが残っていて、これまたしげしげと眺めました。
全面禁煙になってからよく座っていたのが、この通称「シャトー」の一階です。ここでもぐもぐとごはんを食べていたら、近くの大学の先生と思われるお三方が葛コーヒーを食べながら、「四千万とか五千万(持って)行かれて……」「完全に右傾化しちゃって……」といったハードな愚痴をこぼしておられるのを聞いてしまいました。名付けて「シャトーの三人男」です。あの方々は、この喫茶店なき今、どこで愚痴をこぼしているのでしょう。
このシャトーに二階があったとは、気づきませんでした。初潜入です。
店員さんたちが使っていたのでしょうか? そういえば店員さんたちがまかないを食べているところや休憩しているところを見たことがないので、ここがそういう場所だったのかなあと想像しました。
驚くことに、この窓枠を売ってくれと交渉している人がいました。
庭には立派な楠が。
今でも、「ああ、もうあの喫茶店、ないんだなあ」と思います。
小さな、個人でやっているお店がやめずにずっと開けていてくれることが、それだけでうれしいというのは、こういうことを経てみると一層強く感じます。
お休みの日にただ家で本を読んでいるのも悪くはないのですが、やはり本を持って、外に出て、「あ、この花、散っちゃった」とか「もう実が付いている」とか「ここに信号ができるんだ。そりゃそうだよね、なんで今までなかったんだろ」とか、あれこれ思いながら好きな喫茶店に行って、おいしいコーヒーをいただいて、本を読んだり読まなかったりしつつ帰ってくるということが私の生活を支えています。
そして、そういうものを失ったということからは基本的に立ち直れないです。
そうした人間の心の動きはばかにしていいものではないと思います。