プール雨

幽霊について

何カ月もかけて『ハッシュ』を見ました

 ドラマ『ハッシュ 沈黙注意報』("H. U. S. H.")全 21 話をやっと見ました。

第0話 

第0話 

  • ファン・ジョンミン
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 主人公は 6 年前、自社の記事のせいで友人を自殺させてしまったジュンヒョクと、その自殺した人の娘、ジス。ジスが大手新聞社、毎日韓国にインターンとして採用されたところから話は始まります。同様に働き始めたスヨンと彼女はすぐ仲良くなるのですが、スヨンは地方大卒という学歴のせいで正社員への登用はないということが明らかになります。彼女はこれまでにもこうしたインターン生活を繰り返しており、その度に希望を打ち砕かれてきました。今日で毎日韓国でのインターン生活もおしまいという日に、スヨンは先輩社員から当直を頼まれます。ほんとうはインターンに当直させちゃいけないんですけど。スヨンは、これで仕事も最後だからと引き受けます。夜半になって、教育担当だったジュンヒョクはスヨンを心配して電話します。すると当直中だというので驚き、「なんてことだ、インターンに当直させるなんて! 今から行くよ、俺が代わる」と申し出ますが、スヨンは「今夜が最後だから、やらせてください」とその申し出を断ります。ジスは一度帰宅したあと、スヨンのために差し入れののりまきを作って会社を再訪します。そのとき、編集部がある階のエレベーターが動き、誰かが出ていったようでした。ジスは「こんな時間にだれが?」と不可解に思いますが、気を取り直し、当直中のスヨンにのりまきを届けます。ジスからの思いがけない差し入れを受け取ってスヨンはうれしそうでした。「一緒に残ろうか」とジスは提案しますが、「終電がなくなるから」とスヨンは笑ってジスを帰します。ジスが職場を去ろうとし、ジュンヒョクがスヨンへの差し入れを手に社にもどったとき、その目の前でスヨンは逝ってしまいました。

 これが第三話のことで、私はここで続きを見られなくなりました。

 ところが偶然、お盆に両親の家に行ったとき、韓流好きの父がこれを見ていて、それがまたちょうど第四話だったので、「これはもう、覚悟を決めて見るしかない」と腰を据えて見始めました。

 まあ、大変。

 休みなく、つらい。

 ことは、インターンをひとり死なせてしまった会社の社員が、何を語り、どう償うかということなのですが、そこに「議員のコネ」とか「世襲」とか「格差」とか「権利と選択肢を奪われている労働者」といった問題がぐいぐい絡み、主人公二人はいつも涙ぐみ、首の血管がひくひく浮き、歯を食いしばって食いしばってたったひとことを絞り出すのが精一杯……というありさまなのです。ジスを演じたユナの顔はどんどん小さくなり、ジュンヒョクを演じたファン・ジョンミンのおでこに浮き出た血管がひっこまなくなりました。

 かれら以外の登場人物もリアルで、どの人もスヨンのために口にしたい、口にすべき言葉にたどり着く前に会社での人間関係や家庭の問題に押しつぶされそうになっています。

 スヨンが立ち去ってしまったこの会社、この社会で生きている人びとの毎日です。

 中盤は酒を飲んだり食事をしたりしている場面が多く、それで離脱しそうになったこともありました。

 どなる登場人物が多く、それでも離脱しそうになりました。

 後半は毎回毎回 10〜15 分くらいのところで魂を削られるようなイヤな展開があり、それでも離脱しそうになりました。

 でも最後まで見てよかったです。

 スヨン、ごめん

 登場人物たちがそう言えるようになるまでの長い苦闘が描かれていました。

 だれかひとりを喪ってしまったら、それで世界は激変する。激変していないふりで同じ日常を繰り返せると思うな、という強烈な主張がありました。

 そのことが、この「ごめん」の一言が言えないせいで希望をうしなっている毎日を、明るいところへ引きずり出す、不思議なパワーにつながっていて、おもしろかったです。

 希望のある明日を迎えたければ、昨日のことを反省しなければというジュンヒョクの素朴な言葉が光り輝く最終話でした。