プール雨

幽霊について

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』とワインとつのねこさん

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を見ました。

www.phantom-film.com

オードリー・ニューハウスは、時には戦場にも出向く、著名なジャーナリストで、貧困や格差、差別の問題を追いかけている。その彼女になぜか、若き俳優、ルパート・ターナーのインタビューという仕事が舞い込む。ルパートは、10 年前、まだ 11 歳だった頃、人気俳優のジョン・F・ドノヴァンとの文通で話題になったことがある。彼の近著はその件についてで、当時、ドノヴァンが突然亡くなってしまい、それが事故であったか自殺であったかといったことは今も謎で、ルパートは彼の知る限りドノヴァンについて話したいという。しかし、オードリーは夭折した人気俳優とロンドンの少年との文通など興味が持てず、著作を読むことすらせず、インタビューも断るつもりだった。一時間後には空港に向かわなければいけないのだ。ルパートはそんな彼女に話し始める。自分と母のことを。

 というわけで、物語は 10 年前、2006 年のルパートとジョンをめぐるシーンと、現在、2016 年、チェコのカフェでオードリーとルパートが向かい合っているシーンとを行き来します。

2006 年のシーンにはルパートが知らないこともまじっているようなので、どこまでがルパートの話したことかはっきりしません。

でも、一箇所だけ、ここは彼がこういう風に話したんだなとわかる場面があります。ルパートと母が雨のロンドンで和解するところです。ドラマチックな『スタンド・バイ・ミー』(のカヴァー)がジャストなタイミングで流れ、♪じゃーん! で親子はハグします。ダンスで言うと、曲がいちばん盛り上がるところでジャンプをしたようなもので、抑制の効いた前後のシーンと比べ、とても異質です。

ルパートはジョンのプライベートなことは彼から直接は何も聞かなかったと言い、語ることで美化したいわけでもないと言います。思い出され語られる 2006 年の映像は、そのとき語り手が何を見ていたか、何を見たかったか、知りたかったかということを色濃く映しています。母や先生、いじめっ子たちの顔、顔、顔。語り手によってじっと見つめられるいくつもの顔。そして、顔をいくらじっと見つめても、わかることとわからないことがあったし、わかったからと言って近づけるわけでもなかったし、また、わからなかったからと言って何もできなかったわけでもなかったということが静かに語られています。

ですが、母が雨の中を駆け、ルパートに「あなたの作文を読んだ」と言うくだりだけは、その抑制が失われ、実にドラマチックなのです。ルパートは、このときのことを何度も思い出し、そして幾度かは聞き手を得て、あるいは聞き手もなく繰り返し語ってきたのだろうなと思わせるシーンです。

このシーンの不思議なまでのポップさは冒頭でアデルの『ローリング・イン・ザ・ディープ』が流れ、エンドロールでザ・ヴァーヴの『ビタースウィート・シンフォニー』が流れるといったところにも共通しています。そのポップさと、『スタンド・バイ・ミー』が終わったあとなお映される雨の中の親子の姿をめぐる、かすかな戸惑いに個性を感じました。アップが多いのに、きつくない、近すぎない感じがするのもおもしろかったです。この監督の映画はこれまで見損ねてきて、ちょっと気になっていたので、新作で見ることができて嬉しいです。

見所はたくさんありますが、ラストの三人の美しさがすてきだと思いました。ルパートを見送るオードリーと、バイクの上で微笑む二人。三人の笑顔が美しかったです。

ピカデリー新宿ではこんな展示がありました。

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ピカデリーの展示

そして、007 の新作は 11 月 20 日公開なのですねえ。

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私の動揺が隠せないショット

映画の後はいつもの友人たちとカフェでお茶会をしました。

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つのねこさんもいっしょ

テーブルの引き出しにカトラリーがセットされているお洒落カフェです。

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おしゃれかつ便利

「ジョンのお兄ちゃん、よかったねえ」「お母さん、リアルだったねえ」「ナタポー、すごいねえ」などとドノヴァントークに花を咲かせつつ、さりげなく、一本目のワイン登場です。

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つのねこさんが見上げています

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ワインの間をうろちょろするつのねこさんたち

話は『ミッドサマー』でジョシュに腹を立てた件、『エクストリーム・ジョブ』がひたすらおもしろかった件、みんな美少女になったつもりで生きればいいと思う件、意外と県人意識が強固な件、今年の大河と朝ドラがおもしろい件などなど大展開し、二本目のワイン登場。

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ワインボトルの前でおしゃべりに興じるつのねこさんたち

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おつまみのオリーブを見つめるつのねこさんたち

というわけで、要にして急な映画&お茶会、とっても楽しかったです。途中、『ミッドサマー』のクリスチャンとジョシュに思い出し怒りをして、つい声を荒らげてしまい、ほんとうに申し訳ありませんでした。あいつらのことは金輪際思い出さないことにいたします。

まったくジョン・F・ドノヴァンの言う通りで、まずは嘘なく生きて、免疫力を高め、自分のアイドルに対して思い入れだけでなく思いやりをもち、元気いっぱい生きていこうという気持ちになれた夜でした。

また近いうち、みんなでお出かけしたいです。

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おみやげのコーヒ〜