思わずノートに書き付けたくなるキリンジの歌詞といえばやはりこれでしょうか。
街の灯が水に滲んでゆく
「夜中には止む。」
この雨をみくびるな
みぞおちを蝕んでゆくだろう
深く 深く
それとも、こんなのでしょうか。
燃えないゴミはボナンザ
せこいねと笑いなさんな
(精錬しよう)
いや、やはりこれか。
親父の通夜でからまれる
親父の通夜でからまれる……。
そういや、からまれたなあ……。
それはともかく。
歌いたい、踊りたい。
キリンジの曲はそれだけでなく、「ただ単に突っ立ってつぶやいてみたい」「ノートに書き写してしげしげと眺めたい」といった気持ちにさせてくれるものです。
では、KIRINJI はどうでしょう。
KIRINJI もやはり、「壁に向かって朗読してみたい」とか「こそこそ書き留めたい」という気持ちにさせてくれるのでした。
それでは発表します。
🌻 今書きたい KIRINJI ベスト 5 🌻
第5位 「虹を創ろう」(『11』より)
ソーダの渦は銀河だ飲み干しな
「虹」とか「ソーダ」とか「銀河」といった語彙と「飲み干しな」という口調のアンバランスさが魅力です。というか、KIRINJI のくせに「飲み干しな」っていうのがたまらない。これはキリンジ時代からの特徴で「突然のハードボイルド」と呼ばれるものです。ハードボイルドは大事ですから。
第4位 「絶対に晴れてほしい日」(『ネオ』より)
それ個別的自衛権で対応できるでしょ
「個別的自衛権」「ふつうの国」といった語彙がポップミュージックにのってしまうとは驚きです。このアルバムには「おっしゃるとおりです/いろいろ諸説はあれども」(「ネンネコ」)といったフレーズもあり、こうした全然詩らしくない語彙、語句がこの一瞬だけ輝くといった風情をかもしています。
第3位 「悪夢を見るチーズ」(『愛をあるだけ、すべて』より)
これはね、媚薬さ
稲妻みたいな SLAPPING
弾けりゃヤバみ感じる
本当さ
平素、「ヤバみ」とは決して発音しないであろう声が「ヤバみ」と歌います。この言葉は生き残れるでしょうか。もし、死語となった場合、他ならぬ「悪夢を見るチーズ」が後世貴重な資料となります。みんな死んでもこの曲は残るので。「本当さ」のところがほんとに凶悪ですばらしいです。
第2位 「非ゼロ和ゲーム」(『愛をあるだけ、すべて』より)
非ゼロ和ゲーム
ってそれ何?
愛の呪文さ 君も唱えて
ひ・ぜろ・わ・げーむ
これは一回で覚えた。
一回聞けば覚えられるということの素晴らしさ。
「非ゼロ和ゲーム」という言葉がポップミュージックに乗ることはまさか今後ないと思うけれども、あったとしても、この「非ゼロ和ゲーム」っぷりにはかなわないでしょう。
時々、歌手の人がしゃべっているだけなのに、歌っているように聞こえることがあります。ジョン・レノンのインタビューなどを探して聞いてみて下さい。おや、歌っているのかな? と思うときがありますので。
この「非ゼロ和ゲーム」はなんと、歌っているけどしゃべっているように聞こえる、たいへんおもしろい曲なので、ぜひ買って聞いてください。
第1位 「『あの娘は誰?』とか言わせたい」(『cherish』より)
そう、本当の君はマッチ売り
雪に埋もれて眠ってる
朝が来て みんな見て見ぬふり
死にたいってことは生きたいってことかい?
「君」に伝える「本当」の重大さ。「見て見ぬふり」から「死にたい」への展開、そこから「生きたいってことかい?」と突然の疑問形。「君」が一瞬に受ける衝撃の多彩さ、大きさ、そして小ささ。このあとは、「bright lights 口先の好景気/今夜も満席のネットカフェ/息できない/クールじゃない/美しい国はディストピアさ」と続きます。普段はとても詩にならないと私たちが諦めきっている、日常の汚れた語彙が並びます。汚れていても、口するしかない、口にするならせめて歌にして。
おわり