プール雨

幽霊について

すでに巻き込まれていることについての仮説

ブルーベリー?

 叔母はスマホ歴が長く、これがあれば何にもいらないと言っており、実際全て(?)をスマホで済ませるようです。さらに、「スマホがあれば親も教師もいらない」と悲しそうに言い、「そんなことないよ」と私が言っても「あなたはわかってない」とでも言いたげに首をふるだけ。スマホで何でもできる、スマホべんり、ひゃっほー! じゃなく、「これひとつで何でもできるし、他になにも、だれもいらない……」と悲しげなのが不思議です。

ドウダンツツジ

 私がしている校正校閲の仕事に対しても「もう、本なんてだれも読まないし、あなたの仕事ってどうしてまだあるの?」と真顔で何度も聞きます。あまりにも切実な調子に、「失礼な!」とも感じないほどです。みんながみんな、スマホタブレットが使えるわけじゃないし、そうじゃなくてもどうしてもつくらなければならない本というのはあるし、また、たとえ、最初からデジタルユースのみのものをつくるとしても、だれかがテキストを書いて、それをみんなでチェックして、デザインして、という作業工程は一緒だから、仕事が減ることはあってもゼロになることはないよ、と何度も説明しているのですが、その度に悲しげな顔で沈黙するのです。私の言うことが信じられないみたい。

 「あなたの知らない闇を、私は知っている……」とでも言いたげなその横顔を不思議な思いで眺めています。

 いや、スマホを手にしたのは標準から大きく逸脱してつい最近のことであるにしろ、私も PC はずっと使用していて、それで仕事はもちろん、雑誌代わりにネットで色々読んだり、買い物したりしているので、インターネットに対してはおそらく叔母よりも日常に絡んで絡んで解きほぐせないほどであるわけなのですが(ネットを通じてできた友人だっているし!)、なんか、そこに壁がある。

 叔母は私とは別世界にいると主張します。私というニンゲンは極端に今の世界から遅れていて、何にも知らないのだそう。弟も(叔母よりは遥かに脳天気に喜んでいるとはいえ)同じような「これひとつで何でもできる」感を醸していて、本を読む私を見下している風すらある。スマホに常時電源が入っている人が否応なく巻き込まれている世界というものがあるようで、そこにいることの恍惚と不安というのでしょうか、それが自分にはずっと、よくわかっていなかったし、今でも実感としてはわからない。

 無理矢理そこんところを想像してみる。

 パソコンユーザーからすると、スマホって、アプリケーションごとの区切りがゆるくて、ちょっと検索したり入力したりする度にそれが即全体に反映されるので、PC よりも「ネットにつながってる感じ」が強いかもしれないです。

 また、今日日なにか買い物をしようと思って無防備に検索すると、ずらっと表示されている検索結果に延々似たようなテキストが見える、というのが当たり前の状況で、そんな中で「ましなサイトはどれだ」って捜すまでもないというか、ごちゃ〜っと並んだ定型句と定型句を調整した文言を見ていると、「だれがだれに向けて書いたか」といったコミュニケーションの基本なんかはどうでもよくなってしまうかもしれない。

 叔母や弟の視点を想像すると、インターネットの世界では、もわもわと著者名のない情報(著者名はついているんだけど、勝手にデータとして使われたり、コピペされたりしやすく、現状では「著者名がついていない」に近い状態だという意味です)がたくさん漂っていて、そこから自分のほしいものをほしいときに引き出せばそれで十分、という「作者のいない情報世界」に住んでいるようです。それは昔「共有」という言葉で期待ないし想起された事態とは似て非なる状態で、すでに AI 的なもののもとで現実が編成されているのかもしれません。名前のついていない情報で十分。これまでに積み上げられた情報の利用だけで暮らしていける。人類はもう、教わる必要も学ぶ必要もない。ノートに書き出したり声に出したりして「覚える」だの「記憶する」だのは変人のすること。叔母はその世界を、それ以外は選択できない現実として生きていて、その外側にいるのは変人ばかりだから関係がなく、だから「スマホひとつあればほかに何にもいらない」と言いながら悲しくなる。そういうことなのかな。

 私はそういう世界をそれと知らずそこここで経験して、「なんか最近、AI みたいな文章(コピペで構成していることを隠していないという程度の意味)書く人増えたな」とか思ってた。

 と、そういうことなんでしょうか。

 「そういうことなんでしょうか」って言われても困りますよね。

 想像ですしね。

 弟がえらそーなのはとりあえずおいといて、叔母が悲しそうなのは気になるけど、叔母もそれを説明できないみたい。あんまりいいものじゃない、もっとスマホに頼らず暮らしたいけど、そうもいかない、とは言ってました。

 スマホと距離が取れるように暮らしていけたらいいんでしょうね。スマホ一台で何でもっていうのはべんりだけど、なんか煩わしいし、つまらなくもある。

もふもふ

もふもふ

もっさもさ〜

もっふー

💻 これ以上どこをどうたたいてもなにもわからないのでおわり 📱