プール雨

幽霊について

"Stuck in the Middle"

 つねづね、国体を維持するのが大事、そのためには夫婦別姓など論外と公言している政治家が「右翼扱いされている」と懸念を表明したのには驚きました。リベラルな価値観や言動が国柄に影響するとして、時に「反日」と攻撃するような政治家は、誇りをもって「右派」「右翼」を自認しているものだと思っていたからです。

 「左翼」も「右翼」も現状では単なる悪口で、「あの人は左翼/右翼だから」と言った場合、「その人の話は聞く価値がない」ということを含意するというのは、「右も左もどうしようもない」や「(自分は)右でも左でもない」といった表現からわかります。自分は右でも左もでない、まんなかだという表明はあちこちでみかけます。

 でも、「右でも左でもなくまんなか」に居続けるということは、基本的にはとても所在ないことだと思います。「右でも左でもない」というのは結局、程度問題にしかならないし、しかもまわりの状況次第で「まんなか」の位置がころころかわる。いつもいつもその状況を観察して微調整しながら生きるのは手間がかかるし、そんな位置取り重視な態度では「あれもれこも嫌だ」以上の表明にはなりえない。

 当然のことながら、「自分は右/左」と、くっきりぱっきり表明することもまた、難しいだろうと思う。繰り返しになるけれど、右か左かで考えるのは、結局は程度問題で、右から左までの尺度自体が状況に応じて動いてしまう状況下では、「真ん中辺だと思ったら左にいた」「左にいると思っていたら右だった」ということも日常茶飯事だからです。

 「右でも左でもなくまんなか」にいたいとか考え出すと、それは「振り回されたくない」ということ以上にはならず、結局ずっと振り回されることになると思う。

 私が抗って、避けているのはその、「全体の中での自分のポジションを気にする」という発想自体です。

 より端的に言うと、権威主義を警戒しています。

 頭のなかにピラミッドを設置し、今相対している人がそのピラミッドのなかでどこの階層に位置するのか決めなければ何も判断できないというのは、あまりに手間です。言動より先に相手の位置づけを気にするなんて、そのたび毎に社会構造全体を俯瞰するなんて、大変すぎる。

 それに権威主義を自身にセットしてしまうと、言動が「権威からの承認待ち」になってしまうので、短気な自分には耐えられない。

 祖母は、彼女いわく「神経質な」私のことを心配して、「偉い人の言うことを黙って聞け」とよく言っていました。とても悲しそうな、暗い表情でした。だから「それで何かいいことあるの?」とまでは聞けませんでしたが、「偉い人の言うことを黙って聞く」という態度だと、相手の言動を受けとめるに際して、不透明な要素が多すぎて疲れます。それに「黙って」受け入れているうちに困ったことになるのは私自身です。偉い人の言うことを黙って聞いて、つまらない嘘を重ねて最後には責任を取らされるような事態に至ったって、「偉い人」は反省もしてくれません。

 社会的な立場、年齢、性別その他属性と呼ばれるものによって、応対の種類を変えるという作業をせずに暮らしていると、とりあえず「自分で自分が不快」という事態からは距離をおけます。

 私が頼りにしているのは言葉です。

 言葉は、私自身よりはましだからです。

 かっとなって、あるいは哀しさに突き動かされて行動してしまいそうなとき、強いて「文」で考えます。文は矛盾を嫌います。いいかげんに歩みを進めると、そこで止まって一歩も進まず、二歩下がることを要求してきます。そのときは、今目の前に広がっている文言に打ち消し線を引き、矛盾が生じる前までもどります。

 そういう風に、権威主義からできるだけ距離を取り、言葉を大切にして、論理や倫理などの「理」重視で暮らしていると、反抗的だとか気難しいとか、そういう評価を受けるようになります。それでも、私は快適さが重要なので、よくわからない高所からの評価よりも、言葉の筋道通りに考えることの方を選びます。

 頭の中にヒエラルキーがセットされている人と相対すると、だれが上でだれが下でどっちが勝ちでどっちが負けでという位置取りが済まないと話が進まず、手間だなあと思います。それに、あなた自身はそのピラミッドのどこに位置するつもりでいるのかとか、その位置取りを承認しているのはどんな存在なのかとか気になります。

 それでほんとに自尊心って維持できるのかな? と気になるのです。

 それにあなたが、私をそのピラミッドの最底辺あるいは階層外に位置づけていることを、私は知っているんですよ。別にそういうポジションをあなたが頭のなかで決めてかかるのはかまわないけど、それでほんとにいいのかなって思います。だって、私のこと、別に嫌いじゃないでしょう? なのに馬鹿にするの? 私を馬鹿にしているとき、あなたはどこにいて、自分自身のことをどう思っているのでしょう。

 

 

 突然ですが、以上です。

 これでおわるのもなんなので、MIKA さんの "Stuck in the Middle" をはっておわります。

www.youtube.com

 

♪ おわり ♪