それは、こんな何でもない一件から始まりました。
雨子がある夜「西村京太郎サスペンス 鉄道捜査官」を見ながら「松阪を町歩きするのもいいかも」とつぶやきました。
2019 年の秋のことでした。
その後世の中はパンデミックに突入してしまい、とても遠くへ旅行するわけには行かなくなり、ざべすたちは歩いて行けるところに泊まったり、ひたすら公園でファミマ御膳を食べたりしてお休み気分を演出してきました。
そして今般、20 周年だし、マスクをがっちり着用して気をつけて旅に出ようということを私どもは決心し、じゃ、どこ行こう? となったときになかなか行く先が決まらず、わりかしぎりぎりになって雨子が「松阪〜桑名旅行はいかが?」と言い出しました。
雨子は沢口靖子が好きなので、どうしても松阪に行きたいようです。
ざべすは松阪と言えば牛ですから、異論はありません。
そんなこんなで到着した松阪で突然猫の集会所に出くわしました。
そして評判のコーヒー屋さん、ブルーミントに行きました。
店内はカウンター席と丸いテーブルの席があり、カウンター席の真ん中では高校生の方がマスターに進路相談していました。ざべすたちは上にクリームがたっぷりのったコーヒーとケーキを注文して、おとなしくしていました。
そしていよいよ、雨子念願の聖地巡礼、花村乃里子捜査官も歩いた御城番屋敷(ごじょうばんやしき。ずっとおしろばんって読んでました)に向かいます。
上から見るとこうです。
武士の皆さんが居住した武家屋敷が現存していて、しかもその子孫の方々が現在も居住中で、維持管理に努め、賃貸も可能という建物です。
この建物自体は江戸末期、19 世紀の築造だそうで、それからずっと住まわれ大事にされているなんてすごいです。
お城のすぐそばなので、出勤にも便利ですね。
松阪の町にはこんな風に江戸時代の遺構があって、今もきれいに使用されているというか、使用されているからきれいなのですね。
ざべすは御城番屋敷に家賃を払えば住めるという点にとても感銘を受けました。お家賃はいかほどかしら? 一週間くらい住んでみたいものです。
この日は、味自慢のお宿に泊まることにしました。初日にざべすごのみのホテルに泊まったので、二日目は和風の旅館です。お手洗いもお風呂も共同のお宿で、お食事はちゃぶ台でした。そのお食事がすっごく豪華だったの。
伊勢エビのおつくりを出しながら仲居さんは「ほら! こんな風に腹を割かれてもまだ生きているんですよ、声が聞こえるでしょう? ふぇっふぇっふぇ」と怖いことを言いました。それで食欲が落ちるざべすではありませんが、雨夫は顔色が悪くなりました。
そしてそしてそして、いきなりお肉登場でびっくりしました。
このお肉を仲居さんが料理して、みんなの玉子が入った器にいちまいずつ「まずはこれを召し上がれ〜」と言いながら入れて下さり、私たちはあつあつのところをふうふう言いながら食べ、そしてその豪華さ、おいしさに驚きの声を上げました。この後も続々料理が出てきて、ざべすたちは「おいしいね、おいしいね」とすべて食べ尽くしました。
そしたらなんと、「もうちょっと召し上がりませんか、せっかく遠くからいらっしゃったのですから」と言って、宿の人がステーキを出して下さいました。
それで、ざべすは「ああ、今夜この宿に決めたのも、きっとざべすのため。ざべすのためにここに来たのだな」と思いました。
お宿中すきやきの香りに包まれた状態でぐうぐう眠って、「はうあ」と目覚めるともう朝でした。
すっかり松阪の町にお世話になり、「また来るからね」と挨拶しながら JR の松阪駅に行くと、人間達が「IC カードが使えない」「改札に IC カードをぴっとするところはあるのに使えない」「あの改札は飾りか?」などとどたばたしていましたが、結論として IC カードは使えないのでした。だから紙の切符を買って、出発です。
途中、「一身田(いしんでん)」という町を通り「班田収受」「三世一身」「墾田永年私財法」などの単語が頭をよぎりました。
ここからどこへ向かったか。
今は内緒です。
次回、三重県物語最終回です。
🍖 つづく 🌾