プール雨

幽霊について

『ガラスの仮面』希望の展開

 マヤが今真に会いたいのは、真澄もでなければ桜小路でもなく、青木麗であった。

 いや、会ってはいる。

 ただ聞いてほしいことがあるのだ。

 麗、あたしどうして『紅天女』の脚本に夢中になれないのかしら。あたし、どうなっちゃったのかしら。

 胸の内でひとりごちたつもりだったが声に出ていた。黒岩は「北島、ついに言ったな。待っていたぞ」と笑った。「おもしろくないよなあ、この脚本」と、黒岩だか黒沼だかはこのうん十年、日本中を巻き込んできた紅天女騒ぎを根本からひっくり返すようなことを言った。「確かに、おもしろくないです」「これで一体どうしろと」「おまえさま〜て」と人々が口々に言い出し、最終的にはチーム一丸で「北島が乗り気じゃないんじゃもうしょうがない、脚本変えようぜ」ということになり、試演まであと二週間というところで脚本勝手に大改訂。これで演劇界を追放になるかもしれないが、まあこのさいそんなことはもういいだろ。なんと言っても意外だったのは、突然悪役になった桜小路がそれで突然俳優として覚醒し、のりのりのいきいきで悪人仏師を演じたことだった。マヤの演じる紅天女ももはや黙って切られるようなタマではなかった。ここに至り、マヤは間違いなくあのアルディスとあの妖精パックとあのオオカミ少女を演じた、あの北島マヤなのだった。時代設定すらすっかり忘れたがどうせ応仁の乱とかそんなころじゃろ。農民たちは紅天女の力を借りてあっち方にもこっち方にもつかず、うまいこと生き延びるのだった。

 完。*1

*1:2022 年 11 月 28 日、改段落をくわえ、「突然」「それで突然」を削除しました。