これはネタバレを気にすべき小説なのか。
大丈夫じゃないだろうか。
いやしかし一体何が「ネタ」なのか現状よくわかっていない私がつらつらと思いを述べるのは危険かもしれない。帯には「衝撃」「傑作」の文字がならぶこのミステリ。ふぁーーーと読んで、あんまり勘所をわかっていない私がふぁーーーーーとつれづれなるままに感想を書いて事故が起こってしまっては遅い。
私には、映画館の出口で「金城武死んじゃった」と言ってしまった前科がある。
そう考えまして、そのミステリの作品名をふせて話を進めることにいたします。
この小説、犯人たちの一人称で話が進むのです。
これ言って大丈夫か?
どきどきしてきました。
章が変わるごとに語り手がスイッチするのですけど、人が変わってもいずれにしろ犯罪者なので、「一難去ってまた一難」とでも言いましょうか、逃げ場がなくて大変でした。
しかも、そんじょそこらのこそ泥とか詐欺とかじゃなく(こそ泥も詐欺も許すまじ)、ことは殺人で、そうしたことをする方々ですから、さすがに語りにタメがない。どんどん進む。「おいこら、異常なこといってんぞ」「考え直せ」ってところもずいずいずいずい進む。読者側にとっての休憩場所がありません。
言うなれば、うどんのない『あしたのジョー』。
クイーンメリーのない『ガラスの仮面』。
常勝ホームズ。
ヘイスティングズの服装に難癖をつけないポワロ。
掃除機の導入で悩まないマープル。
ところで今日、私、『新幹線大爆破』見たんです。
社会から見捨てられた高倉健が新幹線に爆弾をしかけて 1500 人の乗客を人質に取って身代金を手に逃走を図る。新幹線側の責任者は宇津井健。彼は 1500 人の乗客そして乗員の命を背負って爆発を阻止するため高倉健を説得にかかる。そんな、手に汗握る、何回見てもおもしろい映画です。
このとき撮影許可をしなかった国鉄がのちに『ウルヴァリン:SAMURAI』で許可なんかするわけないですね。
それはともかく、この『新幹線大爆破』に、「『俺、頭の回転が早いからみんなついてこれないんだよな』と自己評価はめちゃくちゃ高いけど、実態としてはクズ」っていう人物が出てきます。
大抵の人が「なにいってんだ」とあきれるか激怒するか気味悪がるかするであろう発言をそいつがしまして、もちろんその意見とやらは採用されないんですが、「こういうやついっぱいいるけど、たとえひとりでも気味の悪いものですね」と思って見ていました。
話は最初にもどりまして、この『新幹線大爆破』のダントツナンバーワンクズが語り手の小説なんかあったら気味が悪そうでしょう?
そういう小説を 4、5 日かけて読んでいましたの。
つらかったわあ。
しかもひとりじゃないんですよ。
人殺しあるいは人を殺そうとしている輩が数人出てきて章をつないでいくのです。
「逃げ場がない……!」
そんな、つらいつらい 300 頁を過ぎた頃、それは起きました。
語り手に新人登場。
それは、担当刑事……!
犯人のひとりに学生時代は文芸サークルとかに入っていそうなさえない男などと思われてしまう刑事が語りに登場することで、やっとこさ小説に血が通いました。
ああ、つらかった。
ほんとうにここまでつらかった。
その後もどえらい目にはあわされたのですが、これは本格ミステリのような仕組みやトリックがポイントの小説ではなないので、犯罪自体はかなり衝動的に、雑に行われますので、まっとうな刑事が登場したときはほんとにほんとに「これでやっと終わってくれる」とほっとしました。
読み終えた後は自分を癒やすために思わず『インヒアレント・ヴァイス』を読んでしまいました。
それでは、特にこれ以上言うべきこともありませんので、おわります。
おしまい。