『ストックホルム・ケース』を見ました。
1973 年、ストックホルム。男は口髭を櫛でていねいに整え、長髪の鬘をかぶり、サングラスと帽子を身につけると銀行に押し入った。支配人と客達を銃で脅し出て行かせ、二人の行員を人質に取って警察署長に連絡を取れと命令した。要求はこうだった。現在服役中のグンナーを呼べ。そして金と車を用意しろ。車はマスタング。映画『ブリッツ』でマックイーンが乗っていた車だ。
ポスターをちらっと見ただけで見に行くことを決めたので、劇場に着くまで、これがあのストックホルム・シンドロームという名称の元となった事件から生まれた映画だとは知りませんでした。
絵面で、DV夫から幼なじみを救い出そうとする、いまひとつ頼りにならない男の話かなあと。
それが、今度のイーサン・ホークは強盗をするらしい、人質も取るらしい、という噂を聞いて、「イーサン・ホークにそんなことできるわけないじゃん」とひとりで騒然。ひとりで七人分くらいの勢いで騒然としました。
気を落ち着けるため、映画の前に公園をお散歩しました。
そんなこんなでたどりついた映画館です。
まず、冒頭、革ジャン(似合わない)を身にまとい、髭を丁寧に梳るその姿に咽せてしまいました。咽せから立ち直る前に長髪の鬘をつけられてしまい、こんな時節にせきこんでしまう始末。鬘をの毛流れを手で整えるそのしぐさが天才的にかっこわるくて、この人はやっぱり天才だと思いました。
そして、音楽がないと気合いのひとつも入れられない憐れさ。まずラジオで音楽を流す。それからやおらワルぶった声を出す。
「ああ、ここから一体どうやって最終的に失敗するんだろう」
と、冒頭のシークエンスの最中にはもはやそのような構えになってしまい、事実を元にしているので諦めが肝心とはいえ、「ここにジェイソン・ステイサムのような強面の相棒がからんで、映画独自の展開になってくれたりはしないものか」とか考えてしまいました。
ほんの 15 分で私がストックホルム・シンドロームにかかったのです。
「サツだからボブ・ディランが好きだろう?」と言って、刑事に歌を歌わせたくだりはなんだったのだろう。
そして相棒はマーク・ストロングなのですが、なんであのとき二人で朗々とうたったのだろう。
みんなで分け合ったあの梨はどこから出てきたのであろう。
人質のひとり、クララがストレスで生理が始まってしまい、慌てて警察に「クララが大変なんだ! 出血してるんだ! いいから早くタンポンを持ってこい!!」と懇願する辺りにはもう完全におかしなことになっていました。
どれほど運が味方しても、この人は必ず失敗するだろうと思いました。
この、イーサン演じるラースに恋愛感情のようなものを抱いてしまう人質、ビアンカの配偶者の方がまたいい人で。ああ。
ビアンカの気持ちが完全に迷子になってしまうのです。この迷子っぷりが、ラストに彼女が言った言葉と彼女の気持ちの離れ具合が、言葉で言うと「切ない」ってことになるのかなあ。
不思議な味わいの映画でした。
イーサン・ホーク大賞です。
この映画のために『アサルト 13 要塞警察』を放送してくれた午後のロードショー様。ありがとう。わかっていらっしゃる。
映画館を出ると、そこに中古CDを大量に扱うお店ができており、まんまと買い物をしてしまい、
ぼんやりとたこ焼きを食べて、
帰ってきました。
おすすめです!