以前は毎週通っていた映画館。半年も間隔が空くと、歩く道すら輝いて見えました。
たどりつくとジェームズ・ボンド。お久しぶり！
半年ぶりの映画はジェームズ・ボンドにしようか、トーベ・ヤンソンにしようか悩んで悩んで、こちらにしました。
現金輸送車の運転席を、後ろからのぞき見する角度の視線。警備を請け負っている運転席の二人の姿は見えそうで見えない。彼らは「コーヒーメーカー買おうかな。カプチーノがつくれるんだ」「ポットのコーヒー、さめてなかったら注いで」と、輸送中の緊張感を残しつつも穏やかに言葉をかわしている。現金を積み込み終え、後は無事に社に戻るだけだ。戻れば今日も終わり。コーヒーは冷めていて、まずいようだ。
と、そんなときに強盗に襲われる。カメラは強盗に襲われても輸送車の後部座席から移動しない。そのため、運転していた二人の顔もよく見えないし、外で起きている銃声の経緯もわからない。
場面は変わり、この現金輸送の仕事を請け負う警備会社「フォーティコ・セキュリティ」の面接に臨むパトリック・ヒル（ジェイソン・ステイサム）。ヒルはそれまで勤めていたセキュリティ会社が倒産したため、求職中だという。申し分ない経歴で、すぐ訓練に入った。体力的には問題ないが、銃や運転の技術はぎりぎりの及第点といったところ。教育係のブレットは彼を気に入り、Hとあだ名をつけなにかと世話を焼いてくれる。同僚たちは遠巻きにこの新入りを眺めながら、中にはあからさまに「気に入らない」と喧嘩をふっかけてくる者もいるが、H は慣れた態度で躱すのだった。その H が仕事に慣れた頃、強盗に襲われる。現場は銃の撃ち合いになり、現金もHたちも無事だったが、死体が 6 体遺った。事件後、H は証言を取られる。「今日の強盗犯の中に、この映像に映っている者はいなかったか」と見せられた監視カメラ映像が、冒頭で起こった強盗事件のものだった。
『CASH TRUCK』（原題："Wrath of Man"）
原案：ニコラ・ブークリエフ、エリック・ベナール
監督・脚本・制作：ガイ・リッチー
ある強盗事件をめぐる物語で、その事件が最初は現場で盗み見しているような視点から、次は監視カメラ映像から、またその次は……と繰り返し映され、その度に真相に近づきます。最初のカットでは車の後部からほぼ動けないので、現金を輸送車から盗み出す強盗犯たちすら、「なんだこの銃声は」「警備員が撃たれたようだ」と状況が飲み込めないようすで、興味がかき立てられます。
そして、H は一体どういう人間で、どういう立場からこの事件にかかわるのか、それが明らかになる経緯に妙なじらしもなく、テンポ良くぱっぱっぱっと真相に近づいていくので、その速度で緊張してしまいます。
ジェイソン・ステイサムの映画を観ていると時々「あれっ、今何見てるんだっけ？ 『メカニック』だっけ『トランスポーター』だっけ？」と今自分がいる位置がわからなくなることがあるのですが、この映画はそういうことがありません。独立した一つの物語。始まりと終わりがあって、いろんな角度から語られる経緯により、ラストはすとんと収まり、きれいに幕が下りるのです。
私はガイ・リッチーの映画は必ず一度寝てしまうという癖があります。『コードネーム U.N.C.L.E』ですら眠くなった箇所がありました。ちょっと私にはおもしろすぎるというのか、「山あり谷あり」で進んでほしいところ、基本的にずっと「山・山・山」でこられると疲れてしまうのです。この流れで申し上げにくくなりましたが、『CASH TRUCK』、完璧におもしろかったです。
無駄はないがユーモアはあり、過度にスタイリッシュではないが、ちょっとしたシックさに胸が躍り、抑制的だが華やかな音楽に時折立ち上がりたくなる。
わくわくしてしまいました。
これから現金ってどうなるのかなあ、これが最後の現金強盗ものかなあ、もしかしたら現金の束ってこれから映画で見られなくなるのかなあとか思うと、「さようなら、札束のみなさん」という気持ちにもなりました。
おすすめです！
帰りは降っているような、降っていないような、ふわふわとした雨でした。
そういえば、久しぶりに行ったせいで今更アイアンマンのマグカップがほしくなったり、見てもいない映画のステッカーを買いそうになったり、物欲を抑えるのが大変でした。映画館は小まめに行かないとなと思いました。
🎦 おしまい🎥
