プール雨

幽霊について

好きなゴースト(1)

テレビで「蛾人間 モスマン」という秋らしい映画が昼日中からかかっていて、あやうく見るところでした。そのときたまたま時間がなくて、見ていたら約束に間に合わないというところだったのですが、「蛾人間 モスマン」の字面の引力がすさまじく、誘惑に負けそうでした。

「蛾人間 モスマン」は二年前にテレビで見ました。チャラ子たちとチャラ男たちが高校卒業かなんかにあたってキャンプできゃっきゃとやっていると事件が起こり、というか「起こし」、楽しい気分は一変、互いに互いを監視しあわなければならない状況に。主人公キャサリンはそこから逃げ出して、遠い街で新聞記者になって楽しく暮らしていたのですが、故郷で行われる「モスマンフェスティバル」を取材に行けと命じられてしまいます。のこのこと忌まわしき故郷に帰って、かつての友人たちと互いをゴーストのように眺める日々、そしてモスマン伝説が動き出す……というお話。

「なんでその流れで突然モスマン出てきた」

と思われるでしょうが、そういう街なのでしょうがないのです。主人公の子の図太さ、肝の太さ、そして体の厚み、きりっとしたラスト……おやっ、もしかしておもしろかったのかな?

捨てた故郷に帰るとお定まりの災厄が……災厄は自分か? という、そんな曲が BECK にあります。2005 年リリースの『Guero』に収録されている「E-pro」。♪ don't forget to pik up what you sow という声を果たしてキャサリンがまじめに考えたことがあったかどうか、「もう十分苦しんだ、忘れていい」みたいなセリフがありましたがな、キャサリンよ、五億歩譲ってそれを被害者がいうのならまだ聞きようもあるが……♪ I won't give up that ghost……おすすめです!

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これは Homelife が「Ghost Range」というタイトルでリミックスしています。そちらもキュートでおすすめです。

生まれ育った場所を離れるのはパワーがいるので、一度出たらなかなか戻りたくないのはわかります。が、ずっと放置しているとあっちにもこっちにもゴーストが育ってわやになるので気をつけようというお話は映画でも小説でも定番です。「行って・帰る」のちょびっと複雑なやつ。

最近の映画では、「マーゴット・ウェディング」(原題:Margot at the wedding、監督:ノア・バームバック)、「ジャッジ 裁かれる判事」(原題:The Judge、監督:デヴィッド・ドブキン)が印象に残っています。

 

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 マーゴットは、ずっと会っていなかった妹の結婚式のために故郷に帰ってくる。緊張するみなさん。緊張するマーゴット。明るくてマーゴットとは正反対に見える妹と、時折流れる姉妹らしい、共犯者のような雰囲気。冴えない妹の婚約者。マーゴットはひと目見て嫌いになる。不気味な隣人、不気味にもほどがある。関係を修復しようとやってくる夫。全部わかってるけどわかっていないことにしている子どもたち。そんな話なんだけど、時折ぶほわっと笑ってしまう。特に主人公姉妹の、お互い大嫌いだし憎み合っているけど二人で話していると笑っちゃう感じが良かったです。

「マーゴット・ウェディング」は大人が久しぶりに帰省したときの気まずい感じや、気持ちがずっとどたばたしている感じ、自分が幽霊になったような違和感などが丁寧に描かれていて、時々思い出してしまいます。

 

ジャッジ 裁かれる判事」は父と息子の関係に絞られている分だけぐっと「お話」寄り。

 家族と仲違いをしている弁護士のヘンリーに、母の死が訪れる。久しぶりに橋を渡り、故郷に戻る。タイヤショップを経営する兄、いつもカメラを回している弟、謹厳実直な判事である父。その父が裁判にかけられる事態になり、ヘンリーは彼を助けるために尽力するのだが……。

橋の向こうは別世界。ヘンリーにとって、橋の向こうはゴーストうごめく世界で、その中にはかつての自分もいる。しかし帰ってみるとそこにいるのはゴーストではなく、人間たちで、むしろ自分自身の方が幽霊であるような気がしてくるのでした。

諍いをしたまま大人になり、さらには中年になってしまった息子と父の話で、ちょっと神話めいた雰囲気が魅力。その神話めいた雰囲気で、ヘンリーが義務を負い、犠牲を払うことに説得力が加わる。今まで何度となく聞かされてきた話なのに、新鮮だし、深く納得できる不思議な映画です。

おすすめです!

 

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