プール雨

幽霊について

『俳句殺人事件』

ただ一茶には、たまには九十郎にお灸をすえてやろうという茶目っ気が働いていた。それは、あまりにヘラヘラしている九十郎が、いやらしく感じられたからだった。 

 たとえば、『虻のように群がってブンブン飛び回る』といったことを、平気で口にする。確かに、虻を見かける季節になった。だが、虻が群がって飛ぶところを、一茶は生まれてこの方、一度として見たことがない。 

 天下の定廻り同心が、そうしたいい加減なことをペラペラ言うものではない。

 笹沢佐保「虻は一匹なり」より。
 というわけで、齋藤愼爾編『俳句殺人事件 巻頭句の女』、俳句がらみのミステリばかりが収められた、必携の楽しい本でした。
 引用は小林一茶が探偵役で、「九十郎」さんはレストラード警部みたいなひとです。「探偵一茶」は一般的なイメージの一茶と違って、きりっとしてかっこよかったですよ。別の短編で、探偵芭蕉も登場します。塚本邦雄の不気味な掌編などもあって、読み応えがある上、詳細な解説と頁下に印刷されている俳句の数々とで、ぎゅうぎゅうの一冊となっております。「休みが長い」と噂の年末年始にいかが。

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