今月の『映画秘宝』は充実していました。読み終えるのに四日くらいかかりました。心に残ったフレーズを以下に引用します。
映画というのは一秒に 24 コマだから、その間に 24 回シャッターの暗間があって、スクリーンに映写されているのは本当は暗闇の方が多い。24 回まばたきをしているわけだ。でもビデオ画像には暗闇がない。まばたきをしないで見つめているのがビデオ。自分の好きな映画を他人にけなされると、なぜムキになって怒るのかというと、映画そのものをけなされているのじゃなくて、一秒に 24 回の闇、つまり目を閉じて自分の心の中に見たものをけなされるから、自分のロマンチシズムをけなされてるから怒るわけだ。(「大林宣彦ロングインタビュー、完全採録 in 尾道 大いなる映画少年」より)
「大林宣彦映画入門」と題した追悼記事の一部です。『時をかける少女』で原田知世さんを好きになってしまい、『天国にいちばん近い島』に至ってはうっかり二回見てしまった、そんな少女時代を送った私は、大林宣彦監督のインタビューが大好きでした。何を言っているかよく考えるとわからないけど、なんとなくわっとおもしろい。そんな監督のインタビューはどんな媒体でも変わらずおもしろくて大好きでした。
三留 あのときね、私メイク室で峰岸徹さんとなぜか一緒で、峰岸さんがお腹に目を描いてもらってるところだったの。峰岸さん、あの美声で、「受験大変だよね、頑張ってね」って真剣に心配してくれて。私もう大学生だったけど、子どもに見えたみたいでそう言ってくれて。でも、お腹に目玉があるんですよ(笑)。(「大林チルドレン激白!2 実験映画の偉大なる父と並走した 40 年! 大トリ TALK ! 三留まゆみ×柳下毅一郎」より)
映画『ねらわれた学園』 の撮影時のエピソード。うっとり。なにもかもすてきです。でも、『ねらわれた学園』、まったく思い出せません。あの頃、隣近所の女子同士で「ひろこちゃん」「ともよちゃん」は巨大な共通言語だったので、多分、見てはいるんだと思うんですが、こわいくらい思い出せません。今度見てなければ。
この機会にテレビでやってほしい大林映画は『異人たちとの夏』です。あれは比較的、大部分はまとも……だったような気がします……だから、みんな最後まで見られると思う。最後でびっくりするんだがな。
p.54〜64 全部
「必要至急の映画館全力応援特集! 全国ミニシアター&名画座の新たなる試み最前線!」という記事です。『映画秘宝』を読んだことないって方にもここは読んでほしいです。名古屋シネマスコーレ副支配人、坪井篤史さんインタビューはじめ、全国のミニシアターのみなさんの今のお話が読めます。
p.86〜93 全部
「『鵞鳥湖の夜』とネオ中華ノワールの世界」特集です! 『薄氷の殺人』のディアオ・イーナン監督の新作『鵞鳥湖の夜』が近日公開予定……! そしてドニー・イェンとアンディ・ラウ主演の香港マフィア&汚職警官もの『追龍』、6 月 26 日公開……! これだけでどうしても無事に見なければなりません。
今回の『グラインドハウスU.S.A.』は特別編だ。単にテレビ番組のテーマ曲について書く代わりに、ぼくは自分が最高だと思うアメリカのテレビ番組の主題曲を Vimeo のアカウントにアップロードした。読者諸君はそのフォルダーにアクセスすることで、今回ご紹介する曲を直接聞くことができる。リストは 50 曲以上にのぼり、紙幅の都合でその全てについてコメントはできないが、書けるだけの分については書いておきます。(「ノーマン・イングランドのグラインドハウスU.S.A.」より)
これは「なんつー、手間のかかることを」とその豪華さに驚いたのもありますが、最後に突然文体が変わるのが味わい深いです。
このときのキアヌは本当に丸々と太っていて、でも普段と変わらず愛想よく「へえ、このひと太るとこうなるんだ」と興味深く思ったものの特に悪い感じはしなかった。(「澤井健のマチルダ・メイはラスト・シーンまですっぱだか」より)
心にキアヌ・リーヴス。
杉作 石井(輝男)さんって腐った食べ物に対する思い入れがすごくある人なんですよ。石井さん自体が食べられないものは「漬け物」ですからね。発酵したものとか、腐ったものでイヤな思いをしてるはずですよね。もしかしたらそこに石井輝男映画最大の秘密があるのかもしれない。
ーー でも、石井監督はチーズが大量に乗ったピザは大好きでしたよね?
杉作 そうでした……。(「狼の墓場新聞」より)
これは杉作J太郎さんの「男の墓場プロダクション」が「狼の墓場プロダクション」に改名したこと自体にちょっとびっくりし、かつ、よろこばしく、記念にメモしました。見るだけで痩せる映画について話しているところで、相当食欲がなくなる話をしているので、前段部分が気になる方は雑誌で読んでください。
『映画秘宝』は、隔月だったころから読んでいます。当時時間的にも経済的にも精神的にも困窮しており、映画館にまったく行けなかったのですが、映画の本だけは読んでいて、その中で『秘宝』はひとりぼっちでもえへらえへらと笑える時間を提供してくれる、頼りになる雑誌でした。
毎号欠かさず買っていたわけではなく、また、当然のことながら、載っている記事全部に首肯したり感動したりするわけでもなく、「ファン」というよりはもうちょっと体温の低い「読者」であったわけなのですが、2020 年 3 月号(2 月 21 日刊)をもって一旦休刊になってしまったときは、長年続いた習慣をばさーっと断ち切られたようで、ちょっと震えてしまいました。
しかしまさかのスピード復刊。もう一回震えました。ジブリのヒロインみたいに髪の毛ぶわっとなりました。サンキュー双葉社。さすが双葉社。以前、一箱古本市でふっと手に取った文庫本、それを店主の方に「これいくらですか」と尋ねつつ、双葉社の古い文庫だったので、「もしかしてめちゃくちゃ高いかも。もし、にせんえんとか言われた場合、私は交渉とかできるだろうか」とたいへんどきどきした思い出があります。ふつうのお値段だったのですぐ買いました。今後、秘宝のお礼に双葉社の本は優先的に新刊で買って参ります。
ええと、『映画秘宝』に関して語れることは以上です。来月号はランボー、日本沈没、呪怨の三本立ての予定になっております。たぶんモアベターです。
おわり