プール雨

幽霊について

クールの中身

 橋本聖子東京オリンピックパラリンピック大会組織委員会の新会長に就任して以来、ソチオリンピックのときに彼女がフィギュアスケート選手に対して行った、立場の違いを利用したキスやハグなどの問題が蒸し返されています。

 今回ちょっと驚いたのは、ハグ強要事件について、政府インターネットテレビに動画が公開されているということです。官邸側にはあれが「立場の違いを利用したいやがらせだ」という認識がなかったのですね。

 あのときのことは非常によく憶えています。失望に失望が重なる最悪のケースとして、憶えています。

 まず、選手へのキス強要に関して。写真を公開した週刊誌の扱いが告発ではなく「冷やかし」であったため、二重三重にいやがらせが重なっていました。主体的な告発であればああしたことにはならなかったはずです。まず、選手に対する橋本聖子の直接的なキス強要があり、それを冷やかしで記事にした媒体による、選手と橋本聖子に対するいやがらせがあり、さらにこれを取り上げた他メディアによる、やはり選手と橋本聖子に対するいやがらせが続きました。

 そして、選手への首相とのハグ強要に至っては、まず橋本聖子による選手への強要という、権威勾配を利用した強制があり、それをお殿様然としてただ座して待っている首相と彼をめぐる人々による、構造的な選手(たち)への強制がありました。さらに、記者たちがこれを告発せず、なんとなくほんわかした「○○ちゃん、首相とハグ」的な記事で伝え、テレビでもにやにやほんわかと受け取っているという、これまた二重三重のいやがらせがありました。

 セクハラ大国じゃん、と思いました。

 オリンピック招致に成功したときに、私は「まあでもこれでバリアフリーはすすめざるをえないし、政治家の人たちの差別発言なんかも少しは減るだろう。国際社会に向けて、東京を売り出すとか言ってるんだし、原稿棒読みでもまとまった見識を口にしている間にすこしは変わっていくだろう」などという、今になってみるとまったく甘いことを期待していました。

 招致成功からこれまでを見ると、政治のトップの「自分たちには行動を強制すること=暴力をふるうことが許されている」という認識と、それを追認するマスコミの姿勢によって、むしろ政府の汚らしさは隅々まで行き渡ったというべきではないでしょうか。

 オリンピックが実際に開催されるかどうかまだわかりませんが、開催されたとしたら、体の不自由な人には安全に移動することすら難しいこの街で、「地獄の一丁目」と言われる酷暑と COVID-19 の市中感染がおさまらない中、この官民一体で繰り広げられるセクシャルハラスメントを世界中にさらすことになります。すでにそれらは問題としてさらされてきてはいるのですが、更にここでオリンピックという平和の祭典をもって、どれほど性的なことに関してお偉い方々が甘いかを、とりつくろわずオープンにして、これが「クール」と豪語すればいい。どうせ、今更大会組織委員会の会長を誰にしたところで、とりつくろうこともできないと思うし。