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幽霊について

ルールがメッセージ

 マリア・ソツコワの資格停止処分が出たのが 2021 年 3 月。つい最近の話です。

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 このときソツコワがすでに引退していたという事情もあったのか、さほど話題にもならず、国際スケート連盟も公式にコメントを出しませんでした。出すべきだったと思います。

 カミラ・ワリエワのドーピングに対しては出場停止、停止解除、しかし三位以内に入った場合はメダルセレモニーなし(大会後剥奪される可能性を考慮して)と、対応がどたばたしていて、その過程で示されるべき見識も方向性もありませんでした。

 多くの人がロシアのフィギュアスケート(を含めたスポーツ)界に疑惑の目を向けていて、制裁措置も継続中だというのに、その最中にもこういうことが起こってしまう。

 ドーピングは組織犯罪でかかわる人が多く、歴史も長いため、一度手をそめたら一朝一夕でクリーンにできないのだなあとは思います。

 一番簡単なのはやらないこと、という以外にない状況下でも継続しておこなわれる。

 スポーツ選手ってたいへんなんだなあと思うことのひとつにこのドーピングがあって、しょっちゅう検査があるので、頭痛や発熱で苦痛をおぼえても、市販の風邪薬なんかをひょいっと飲むわけにはいかないそうです。禁止薬物のリストは長く、それを確認したうえで処方されるものでないと摂取できない。

 ロシアのフィギュアスケート女子シングルは若くして高難度ジャンプを跳ぶ選手が次々と現れ、あっという間に引退してしまうのがここ何年も続いています。そこにドーピングの問題がなかったとは、いくら私でも思えない。そして、明らかな問題として、健康問題が常に表面に現れていました。

 これはドーピングとはまた別の問題ですが、摂食障害です。おそらく摂食障害と関係するであろう疲労骨折や、骨折の繰り返しなど重篤な故障で引退していく選手もいました。

 オリンピックのような大きな大会があると、そのときだけたまたま見た人が「日本の女子選手も四回転を跳ぶべきだ。そうでないとロシアに勝てない」と無責任なコメントをすることが続きますが、そうした、「跳べ、そしてメダルを取れ」という発想の先にあるのが摂食障害やドーピングだとしたら、どうでしょうか。

 競技としてのフィギュアスケートは選手の健康を守るためにさまざまな研究と努力を重ねてきました。高難度ジャンプの基礎点が今より低く、相対的に高難度ジャンプを跳ぶ価値が低かった時期もあります。でも、四回転を跳ばずにクリーンに滑ることと、四回転を跳んでどたばたしたプログラムにすることとどっちが優れているかという議論は平行線で、そのうち高難度ジャンプを含めたプログラムをクリーンに滑る選手が登場し始めました。

 それは競技として魅力をますことでもあるので、基本的にいいことなのですが、その達成のなかにもし、ドーピングによってなしえたことがあったとしたら、あってはいけないことです。

 フィギュアスケートというスポーツがどうやってドーピングの問題を解決していくかということに関しては、各ルールの設計も必要、リンク毎の運営をクリーンに保つための支援も必要、メンバー全員に対するドーピングを含めた身心の健康を維持するためのあらゆる支援も必要と、やることがたくさんあってどこから手をつけたらいいかわからない状況だろうなと推察できます。

 でも、だからといって、しかるべき組織が声明も出さない、見識も示さないということを繰り返していては、「解体せよ」としか言いようがなくなってしまいます。

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 個人的には、ロシアの女子シングルの選手が、若くして高難度のプログラムを滑り、メダルを取ったあと、さっさと引退するというこの一連の流れは問題を感じます。ロシアのフィギュアスケート女子シングルは、現行のルールでやれる限りの最高難度のプログラムを実現しています。だから彼女と彼らの奮闘はルールに応じたことでもあります。フィギュアスケート女子シングルという競技は、「若い人が健康を害してやるのがひとつの正解」であることを何年も表現し続けてしまっています。それは、よくないメッセージです。

 

以上です。