- 敵を想定することと、英雄を追い求めることは同じ思考の裏表で、敵の規模は英雄が集める支持に比例して大きくなり、強大になっていくのだなと思います。
- 今の都知事の言動を見ていると、確かに傑物だなと思うことがあります。相手の嫌がること、または困惑することを、にこっと、ゆっくり発して通り過ぎて行く姿を見ると、そこから、都知事に強さと安心感を感じて「一生ついて行きます」と決意してしまうような反応を、十分想定できます。でも、この傑物についていったら、そのときは都知事が想定している「敵」もいっしょについてくる。
- 今回の都知事選には有名な陰謀論者が出ていて、それに伴って、有名企業の社長や著名ライターが支持を表明している。「なんであの嘘つきを支持できるのだろう」とまずは思う。その陰謀論者はありもしないデマをこねくりまわして若年貧困女性を支援する運動を妨害し、その妨害の結果、都はその運動への出資をやめ、結局は「東京都が陰謀論者と価値観を共有している」という印象を形成して、勝手に始めた戦いに勝手に勝っておきながら、裁判で負けると「敵は巨大」と言う。徹頭徹尾、卑怯者に過ぎないと私には見えるのですが、支持者にはその姿が英雄的に映るらしく、「この社会を牛耳る巨大な敵に立ち向かうピュアな戦士」といった評価がささやかれています。
- 英雄や傑物の登場を期待することをこれまでは「人情」的に、情緒的に、「そういうこともあるかな」と受けとめてきましたが、そうしたデマゴーグや陰謀論者への評価を見るにつけ、非常に危ない思考の型をもつ世界観なのだなと認識しました。
- ヒーロー、ヒロインを待望して、「すごい人」に胸をときめかすのは罪のないことかもしれませんが、そのときに「敵」を仮想していないか、というところが肝心です。英雄や傑物に心をあずけることは、その反対側にある「敵」を自明のものとして受け入れることでもあり、英雄と敵がセットになった世界観を生きることとも考えられ、現実には不在の敵を構築していく陰謀論やオカルトの道がそこにはあります。
- 一方で、そうした、英雄を待望する人生を生きている人に向かって、「あの人は嘘つきだからよしなよ」などと忠告するのは、「その世界観、捨てなよ」と言っているのと同じで、とても残酷だし、そういう忠告がよい結果を生んでいる現場を見たことがありません。信仰を捨てろと言っているのも同然です。相対したときに、「私は支持しない」と自分の態度を表明するところまでしかできることはないのではないでしょうか。
- しかしまた、「人それぞれ」で済む話ではありません。デマや陰謀論で犠牲者が出ますから。私としては話のポイントは「事実かどうか」で、そこを辛抱強く、繰り返し読んで、聞いて、語っていくしかないのではと思います。
- 自分の影響力が及ぼせないと無力感にさいなまれることもありますが、そんなのは「無力だな」って一回声に出したらおしまいにして、後はこつこつまた読んで、考えて、語ることを繰り返す。ほかにもそうしている人がいることですし。その気配を互いに感じながら、やっていく。「それでいい」ではなく、自分がそうできているか、いつも気をつける。それしかないような気がします。
- 『関心領域』でレジスタンスの人が真夜中、収容されている人のためにリンゴを隠していきます。ああしたことを今、個々にしてるわけですね。「リンゴを埋める」ような行動のずっと手前だとしても、思考の枠組みが英雄物語に切り刻まれないように注意し続けることは、価値のある構えだと思う。そう考えると、「はて」って確かに便利。
- 私もアイドルや映画スターに熱を上げているので、常に気をつけた方がいいなと頭のねじをきゅいきゅい巻いているところです。いつ、陰謀論に片足つっこんでるかわかったものじゃないですから。
- 今週の『寅に翼』で大庭家の三男、光三郎がツネと梅子の世話は僕がみる、と言ったところで寅子がころっと喜んでしまうのを見ると、「君を守るため僕は生まれてきたんだ」方式は強いなあと思いました。そういう寝言をＳＭＡＰもハウル（ジブリ版）も言っていた。でも、光三郎よ、世話をするのは結局、梅子なのでは？ これまで散々梅子をいじめてきたツネの世話を、ほかならぬ梅子にさせて「僕が！」とよく言えたものだ。そして梅子の意見も希望も感想も聞かないお前達よ、寅子まで聞かないのか？ と呆れていたら梅子脱出。
-
光三郎は現状「僕が守る」思考の人。英雄気取りです。でも何から誰を守るんでしょうか。モーニング娘。も「君を守る〜星を守る〜」と歌ってましたが、「守る」だと「なにから？」という問題がつきまとってしまうし、歌っている人が悲劇のヒロインみたいに見えて死んでしまうのではないかと心配になるので、その壁、こえてほしいです。
-
壁を越えて……ウォルダム……！ 引き続き、『ウォルダム』『虎に翼』『ベイクオフ』『ヴェラ』を見ていると終わる一週間です。
📰 ちぇりお 🌟
