プール雨

幽霊について

妄想

 北朝鮮民主主義人民共和国から「衛星ロケット」をいついつ発射するという通告があり、日本は官邸が「北朝鮮から弾道ミサイルと思われるものが発射された」と発表し、各紙「ミサイル」の表記で発表しました。

 いつも、北朝鮮民主主義人民共和国が「ロケット」を発射すると、日本では J アラートを発し、地下などに隠れて身を守れと放送するのですが(Jアラートがないことも。違いは不明)、当地では「地下」なんかないということもありえ、その度に「本当にこの列島に向けて『ミサイル』が発射されるような事態に至った暁には、状況としてはもう一般市民は何もできないよなあ」と思わされます。

 幸い、北朝鮮民主主義人民共和国発表では「衛星ロケット」、日本政府発表では「弾道ミサイル」が日本列島を標的にして発射された事実はありません。

 こうしたことが起こる度に、これは儀式なのではないかと考えてしまいます。

 小国が「ロケット」を飛ばす。近隣の小国は「ミサイル」と呼んで非難し、大国との協力関係を都度都度確認し、軍備増強の必要性をアナウンスしあう。

 ソウルでは同時刻警報がなり、のちに「誤報だった」と訂正されたそうです。それに比べると Jアラートは「衛星ロケット実験の失敗だと公式に通達された」といった訂正もなく、「領土を脅かすものはすべて撃墜する用意がある」という表明をくずしていません。

 私はこの、他国が「衛星ロケット」とアナウンスしたものを自国の政府が「弾道ミサイル」と表現し、新聞各紙がそれをそのまま「ミサイル」と発表し、済んでしまったあとで「衛星」とあらためて報道しているさまを見ているだけなので、事実がどうかはわからないし、判断する必要も義務もないと思うのですが、自分の心情としては「儀式めいている」という気持ちが止められません。

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 各国の右派同士の関係が隠されることもなく、あからさまにされているのを見ると、国境なんか関係ないじゃん、という気分になり、きわめて陰謀論的な精神状態に自分がなっていることに気付きます。

 陰謀論といえば右派の最大の武器で、右派は左派の連繋や連帯を陰謀論のかたちで語って恐怖を煽るのですが、それは自分たちがそういうことをしているから語りやすい物語だってことなんじゃないの、とか、「右派」というかたまりで自分が何かを認識していることが多くなっていて、これはよくない状況です。

 なんで、自分がこんな風に、現実にはいもしない「やつら」を「右派」の言葉でまとめて恐怖するようになってしまったか考えると、やはり今国会の暴力的な状況と関係があります。認めづらいことではあるのですが、自分が今「病んでいる」ということなのだと思います。

 「右派」の人はイシューフルセットで同じ言動をとるので、個々人というようりは「まとまり」のように見えてしまい、これがそもそもよくない。コピペコピペの誹謗中傷とデマを浴びせかけられても、かれらは機械でもなければ妖怪でもないのだから、恐怖まではおぼえなくてもよいはずです。デマと誹謗中傷自体を批判しても、その奥にいる人間のことまでは否定しないというスタンスがとれるはずなのです。

 岩明均に『ヘウレーカ』という名著があります。紀元前三世紀の地中海世界カルタゴとローマの戦争に巻き込まれる小さなシラクサ市。ここがカルタゴとローマの戦いの場になることで、市民のなかで同胞だったはずのローマ出身市民たちは捕らえられ、シラクサを脱出しようとするローマ人も現れます。主人公ダミッポスの友人、クラウディアもそのひとりで、ダミッポスは彼女を家族がいるレオンティニに送り届けようとします。シラクサ育ちで、シラクサを愛し、シラクサで生きていくことを疑いもしなかったクラウディアがそこを捨て、家族の待つレオンティニに向かう悲劇は、そのシラクサの矢によって断たれます。ダミッポスはこうした経緯のなか、才覚を認められ、ローマ軍に来ないかと誘われ断ります。そのときの彼の台詞が「あんたらはすげえよ」「でももっと……ほかにやる事ァないのか?」です。

 入管にさまざまな問題があると明らかになっていて、むしろ入管解体論まで出ているこのときに入管法を改悪するとか、ほぼ唯一日本の制度でまともに動いている国民皆保険をゆるがす保険証廃止を決めるとか、コロナや災害のための予算を防衛費に組み込むとか、政府に首を絞められているような気になる毎日です。

 「あんたらはすげえよ」という気持ちです。想像や妄想で法案を審議し、間違いを指摘されると相手を悪魔化し、事実や現実より自分たちの「実感」を重視する。文体はカルト的で、質問には答えず、平気でウソをつくため、相手はそれが虚偽だと説明する手間を取らされる。

 まったく、すごいです。

 できれば、日本にタダノリするのはやめて、かつての宗教家がそうだったように、自分たちのワンダーランドを自分たちの手でつくってほしいです。

 ま、それはいいとして、問題は私の気持ちです。

 このままでは陰謀論にはまってしまいます。

 世界中の宗教右派は一般市民を脅かし、各国に、時間もなければ金もない、日々あくせく働いて余裕のない階級を生み出し、自分たちが富を簒奪する奴隷として管理するという目的のために連繋し協力しあっているという妄想です。

 そんなこと考えたって胃が痛くなるだけで何にもいいことないわけですから、今月中に脱出したいと思います。