プール雨

幽霊について

『ブエノスアイレス』、さかさまの香港

 『ブエノスアイレス』を 4K 上映で見ました。

じゃーん

恋する惑星*1天使の涙』の

 シネマート新宿という、よくアジア映画をかけてくれる映画館で見ました。

お久しぶりです

 COVID-19 がはやる前はよく行っていて、会員カードももっていたのですが、しばらく行けていませんでした。久しぶりに行ってみると椅子は座り心地がよくなっているし、オンライン上映もあるし、この期間に色々あったんだなあと思いました。

この機会に色々買ってしまいたかったけど

 『ブエノスアイレス』を見るのは何年ぶりでしょうか。すごく久しぶりで、見る前は「全然おもしろくなかったりしたらどうしましょう」と不安にならないでもなかったです。若いときに見た映画なので。でも、びっくりするくらいそんなことはなく、今見ても新鮮でどきどきする映画でした。

 ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)は別れてはまた戻ることを繰り返している恋人同士。ファイがウィンに「やり直そう」と言われてまた引きずり込まれてしまったと言いながらアルゼンチンに二人でやってきて、そしてまた別れる、映画はそこから始まります。別れるときもウィンは「やり直そう」と言ったそうです。

 このウィンの「やり直そう」という言葉をファイは恐れつつ待ってもいて、縛られてすらいるのですが、映画の中でウィンが実際に「やり直そう」と言う場面はないのです。むしろファイがウィンとやり直すことを完全に諦めるまでの経緯が映っていて、こんなに素朴な、シンプルな映画だったんだなと驚きました。

 ウィンとファイが香港を出てブエノスアイレスにやってきたのは、彼らが香港人で、ゲイで、その香港が返還目前だったことを考えるととても切実です。ファイが一人、地球の裏側の香港をその足に背中に感じている場面はとても切ない。結局ファイは香港へは帰らず、台湾に渡り、そこでやっていけそうだと思うところで映画は終わるのですが、それもとても切ない。

 ファイは香港に帰るお金を貯める目的で、よりハードな仕事へハードな仕事へと転職を重ねます。あの頃は「ハードな仕事=金を貯めて次に向かうための仕事」という筋立てにまだリアルさがあったんだなと懐かしくなりました。今だと仕事のハードさと賃金は比例しないので、いっときがーっと夜通し働いて次に向かうための資金を得るという選択肢がリアルに見えない。

 遠くに来てしまったなと思う一方で、ウィンとファイの切実さは変わらずリアルでした。

 そして、中盤以降、突然登場するチャン(チャン・チェン)の鮮烈さに今回もやっぱりびっくりしました。香港から弾き飛ばされたウィンとファイが落ち着かないけれど濃密な日々を過ごすなか、別のリアルさをもって登場するチャンによって事態は少しずつですが確実に動いていきました。チャンの声は決定的でした。ウィンとの関係に閉じ込められていたファイがそこから抜けだそうとするとき、チャンの声がありました。それは外を向いている声でした。

 全然気取ったところのない、素朴で切実な映画でした。

また見よう

🎥 おわり 🎦

*1:間違えちゃった。